眠り 秋さやか
まだ落ちない
まだ落ちない
そろそろ
落ちそう
あ
落ちる
もう
そんなふうに
いつのまにか
眠りに落ちていることが怖くて
意識と無意識の境目を探ろうと
布団の中のわたしは
何よりも真剣だった
真剣に
切実に
眠ろうとしていた
幼かったわたし
得体の知れない恐怖を抱えて
たそがれ泣きの延長に
いたのだろうか
目が覚める保証など
どこにもないのに
どうして気安く眠れよう
うすらうすらと
虹が消えてゆく
ひこうき雲が消えてゆく
わたしが消えてゆく
意識と無意識の境目を
知ることはできないのだと
残酷なほど明るい朝日に
諦めたとき
わたしはすこし
鈍くて脆い大人になった
そうして今はもう
なにも怖くないけれど
ただ時々
白昼にうとうとと
ついうっかり落ちた眠りから覚めると
今が朝なのか夜なのか
ここは一体どこなのか
わたしは
誰だったのか
からっぽな空へ
放り出されたような感覚に
早く脈打つ鼓動
どんどん遠のいていく
今しがたまで浸かっていた夢の
名残惜しさを振り切って
過去と
未来を繋ぐ記憶を
必死で手繰り寄せながら
幼稚園バスのお迎えに
慌てて駆け出してゆく