家守 津田古星
秋の夜 部屋の温かさに誘われて
隙間からそっと身を入れて
天井に這い上る
そこへ女が裸で来て
大きな蓋を開けると
湯気が上がってきて
しまった!
ポトリと私は落ちた
真夏の日向の水のような中を
スーッと泳いだ
底に着いたら上に上がれず助けを待った
女が居たのだから何とかするだろう
しかし なかなか女は戻ってこない
このままここで死ぬのかなと思った頃
女と男が来た
男が桶で私を掬い出してくれた
その時チラと女を見ると服を着ていた
女は私の命の危険を予見できただろうに
上から下まで何枚も服を着てから
男を呼んできたものらしい
無事窓の外へ出してくれたので
私はしばし土の上で身体を休めた
女が
「今夜はシャワーだけで我慢しよう」と話していた
翌朝 日が昇ると
女が建物を回ってやってきて
私を探していたようだが
土の上に見えないとあっさり去った
私の死骸でも探していたのか
もう熱い水の中はこりごりだから
夜になると温かくなるあの窓には
近づかなかったが
春の夜 つい餌の匂いに油断して
隙間から暗い部屋に入って探検していると
突然 明りが点いて またもや女
サッと部屋の隅に隠れると
女はしばらく私を探していたが
諦めて部屋を暗くして出て行った
私は安心して小さい虫を食べたり
のびのびと過ごした
ところが 金属の箱の中に入ったら
滑って吸盤が利かない
明るくなって朝が来ても
脱出は叶わず
女がやって来て またもやじっと考えている
男を呼ぶのか?
と 上からいきなり水が流れてきて
私は穴の中に流され 籠の中に落ちた
女が籠ごと私を引き上げ 家の外に出て
私は庭の土の上に置かれた
やれやれ
この家と女は
私にとって災難か幸運か
この家と女に幸運を授けるべきか否か?
日陰に行って身体を休め
ゆっくり考えよう