猫の目と檸檬の光 荒木章太郎
路面電車が眠る街
波打ち際で瞼閉じれば
瀬戸内際で猫の目沈む
長老達が蓄えてきた
成長、資産を食い潰し
思想、哲学を覆し
新たに作る気力は持てず
ノスタルジックに先延ばす
街の景色は変わってゆくが
俺も猫も残飯漁る日々を重ねる
両手をポケットに突っ込んだまま
背骨を丸めて逆風避ける
これでは格好ばかりで
夢も希望も掴めやしない
野良猫と肩を並べて
転がり込んでばかりの夜に
手を差し伸べることさえできず
ただ、渇きを抱えていた
錆び付いたシャッターが
ギギギと鳴いて朝を招くと
「何度でも生まれ変われる」
そう言いきる猫が俺を見切って
影を横切り去る
波打ち際で瞼を開ければ
瀬戸内際で黄色い猫の目
黒い瞳が砕けて
檸檬になった
路面電車が
走り始める
朝が来たのだ