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スレッドNo.529

音のしない羽音  もりた りの

夜明けの神社の参道をゆく
石畳の真ん中に仰向けの蝉
暑い夏を命一杯生き切った
お疲れさまでした

ティッシュに包もうと
触った瞬間
力を振り絞り低空飛行で
樹の茂みに消えていった

つぎの蝉
また生き返り地面にぶつかり
羽をこすらせて消えていった
静かに茂みのなかへ

たくさんの蝉たちが
最期の力を振り絞り
自分が蝉かも分からずに
鳴き声もなく飛んで行く

蝉よ
飛んで行け
どこにでも飛んで行け
見えない世界に飛んで行け

あたりを見渡し
平衡感覚を失う
神社の境内のはず
境内なのか

わたしも
飛んで行け
どこにでも飛んで行け
見えない世界に飛んで行け

力を振り絞っても
どこにも飛べないわたし
生きている世界で
生き切れないわたし

狛犬の足元に黒い塊
無数の蟻に取り囲まれた蝉
茂みに眠らせてあげるのを
思い留まった

この蝉になろう
いつまでもここに留まって
蟻に食まれながら
わたしは崩れていく

崩れていけるなら
それもいいかも
消えてなくなるなら
それもいいかも

わたしの姿がなくなり
黒い蟻が散らばり
影もなく音もなく霧散する
それがいいかも

編集・削除(編集済: 2022年08月24日 07:47)

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