銀の柄杓 朝霧綾め
夜になると空は
藍色の水で満たされ、
深い泉になる
白鳥、英雄ヘラクレス、鷲、冠
藍色の水面に映し出される
めくるめくばかりの物語
私は知っている
泉の北には
むかし誰かが落とした
銀の柄杓が沈んでいること
草むらに寝転んだまま
私は空に手をのばし
沈んでいる柄杓をとった
銀の柄杓で
泉の水をかき混ぜれば
星々が柄杓にぶつかり
からんからんと音がする
のどがかわいた私は
水を掬って
柄杓を口にもっていった
いたいほどの清冽さで
清水はのどに流れこむ
寝転ぶ私の唇から、こぼれた星々が
あごをつたい、草の上に落ちて
きらきら光る
のどが潤うと
私は空に手をのばし
柄杓をまた、泉に沈めた