旅立ちの日 こすもす
私は駅のホームに立っている
ホームには他に誰もいない
春先だが朝の空気はひんやりとしていた
見上げると空は白く霞んでいる
駅の近くには線路と並んで川が流れている
駅前は家と店が数軒あるだけで
周りには田んぼが広がっている
川の土手には桜並木があり
満開の時を迎えていた
薄桃色の花びらたちが風にのって
私の目の前を通り過ぎてゆく
花びらたちを見ていると
やりきれない思いが込み上げてくる
「なぜ…… なぜこんなことに……」
列車を待っていると
一両だけの列車がホームに入ってきた
私は列車に乗り車両の一番前に立つ
ドアが閉まり列車が動き出した
駅が遠ざかってゆく
列車はゴトンゴトンと音をたてて線路を走る
懐かしい景色も列車の後ろに消えてゆく
私は誰にも告げず今日町を出る
目の前の景色が滲む
線路の先に目をやると
白く霞んだ空へと続いていた