ひぐらしの杜 山雀詩人
「景行天皇皇子
大碓命墓
一、みだりに域内に立ち入らぬこと
一、魚鳥等を取らぬこと
一、竹木等を切らぬこと
宮内庁」
へえ、すごい
ちゃんと宮内庁の看板だ
山登りの復路
偶然通りかかった神社
その隣が何と
日本武尊(やまとたけるのみこと)の兄、大碓命(おおうすのみこと)の墓であった
この山で
蛇にかまれて亡くなったという
知らなかった
日本武尊といえば
神話の中の存在とばかり
まさかその兄の墓が実在するなんて
つまり、こういうことか
神話は作り話なんかじゃない
ちゃんと現実とつながっていると
いや、つながっているも何も
今もまさにここにあると
ホントかな
ホントに埋葬されてるのかな
なあんて疑うなかれ
畏れ多くもこれは宮内庁公認
ニッポン国の真実なるぞ
ほら、よく見れば
見えるよ、見える
髪はみずら
服は純白
腰には聖なる剣(つるぎ)を帯びて
山を駆ける益荒男が
そうだ
人はかつて神であった
荒ぶる神の子であった
ああ何という美しさ
これぞ人の原始の姿
遥かなる太古の夢
夢?
夢か
気がつくと
境内のベンチにひとり
ひぐらしが鳴いている
おかしい、もう夕暮れか
あわてて境内を後にした
石段を下っていくと
向こうから誰か来る
髪はみずら
服は純白
腰には剣
また夢か
いや違う
絶対違う
すれ違う
どうしよう
引き返そうか
境内までついて行こうか
そうすればなれるかもしれぬ
もしかしたら私も
荒ぶる神に
神の子に
いや
ダメでしょう
畏れ多くも神だなんて
一、みだりに域内に立ち入らぬこと
まっすぐに帰路を進んだ
やっと鳥居を抜ける
つくつくぼうしが鳴いている
何だ、まだ昼であった
おりしも路傍に大きな蛇が
いや、落ちて朽ちた枝であった
※ 景行天皇(けいこうてんのう)
日本の第12代天皇。日本武尊の父。
考古学上、実在したとすれば
4世紀前期から中期の大王と推定されるが、
定かではない。
※ 大碓命(おおうすのみこと)
記紀等に伝わる古代日本の皇族。
第12代景行天皇皇子で、
日本武尊とは双子とされる。
※ 日本武尊(やまとたけるのみこと)
記紀などに伝わる古代日本の皇族。
第12代景行天皇の皇子で、
熊襲征討・東国征討を行ったとされる
日本古代史上の伝説的英雄である。
(以上ウィキペディア抜粋)
※ みずら
日本古代の男性の髪形。
頭の額の中央から左右に分けて、
耳のところで一結びしてから、
その残りを8字形に結んだもの。
(コトバンク抜粋)