花 樺里ゆう
萎れた花を しばらく
部屋に飾っておいた
花は乾いても
水に差していれば
色は褪せず
茎も瑞々しいままだ
花弁が細く引き攣れた紫のチューリップは
遠目に見れば花菖蒲のよう
開ききらずに水分を失った薄紅のバラは
冴えた色を残し
ピンクのガーベラは
咲いた時の姿をほぼそのままに留め
水仙の白かった花弁は
透けて花脈が見えるようになった
やがて水仙とチューリップの
子房が膨らみはじめた
次の世代を残そうとしているのだ
生まれた土から切り離され
気まぐれに買い求めた人間によって ガラス瓶に入れられて
いつか茶色くくたびれたら
ゴミ袋に放り込まれるのだとしても
そんなこと花には関係ない
花の美しい瞬間を
人間が勝手に決めただけ
花の一生は
散って終わるのではない
花弁を失ったあとも 生涯は続く
花は変容してゆく
その全ての瞬間が美しく
人間の価値観などとは隔絶した境地で
生命をまっとうしている
そのことに
私はやっと気付いた