黒い森 こすもす
私は深い森の中に迷い込んでいた
森は暗闇に覆われている
辺りを見回すと多くの光る目が私を見ている
獣たちは不気味な唸り声をあげて近づいてくる
私は木々の間に漂う暗闇の中をただ走った
獣たちが後を追ってきているのを背中に感じる
雨に濡れた落ち葉が靴に纏わりつく
落ちている枯れ枝に何度も躓きそうになる
額に汗が落ちる
獣たちは次第に私に近づいてくる
私は目の前の木に飛びついた
夢中で枝をつかみ木を登ってゆく
濡れた幹の皮が足を滑らせる
つかんだ枝が折れ落ちそうになる
それでも登り続ける
獣たちは木の周りに集まり私に向かって大きな唸り声をあげている
暗闇の中の目たちが妖しく光る
木の頂近くにある太い枝の根元で私は幹に寄りかかる
息が上がり額や首筋には汗が流れる
手のひらを見ると傷だらけになっている
獣たちの唸り声が次第に遠ざかってゆく
私は深い眠りに落ちた
目覚めると東の空が少し明るくなっている
私は立ち上がり木の頂から周りを見渡した
どの方向を見ても黒い針葉樹が果てしなく広がっている
白い霧が黒い森を隠すように覆っている
私は登ってくる朝日を見る
朝の光を浴びているうちに自分の体が軽くなってゆく
さっきまでいた木の頂が下に見える
私は空を飛んでいる
心の中で歓喜の声が響く
両腕を羽のように広げ森の上を何度も旋回する
昨日まで森に雨を降らせていた灰色の雲が消えてゆく
森を覆っていた白い霧が晴れてゆく
私は自分の町に帰るため森を離れた
心が高揚するにつれて飛ぶスピードが速くなってゆく
振り返ると迷い込んだ森が遥か遠くに見える
さらにスピードを上げて飛び続ける
朝日に照らされた町が眼下に広がる
町は灰色の砂漠に浮かぶ水色のオアシスだ