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スレッドNo.5379

雨の喫茶店  温泉郷

それぞれが
好きな本を読んでいる
雨粒が伝う窓際
コーヒーの香り

難しい本を読んで
ひけらかしては
彼女に叱られていた私
今度こそは
カッコいい言葉だ

彼女は美しい指で
ページをめくろうとしている

この言葉どう?
今 思い着いたんだ

 空想は主観的真実である

空想は客観的に見れば
現実離れしている
でもね
その人の経験や知識や感情が反映されていて
その人固有のものだ
その人にとっては大切な真実であり
だから
主観的真実なんだよ

彼女は納得のいかない顔で
「客観的真実じゃないの?」と言った

え?
空想は実在しないから
それ自体は主観的だよ

彼女は寂しそうに
また 本に目を落とした

私はなぜか 少し焦った
僕が言いたかったのはね
空想だって
その人にとっては地に足の着いた
生活の一部なのだということなんだよ
そのとき限りで
消えてしまうものかもしれないけれど
空想しているその瞬間には
その人にとって間違いなく実在する
かけがえのない真実なんだ
ということなんだよ

彼女は初めて
私の好きなあの笑顔になった

それなら賛成するわ
あなたの中では
私は主観的真実であり
実在する大切な生活の一部なのね
私はもう
客観的には実在しないけれど
あなたの主観的真実であれば
それでいいわ……

あの雨の日 彼女が何を読んでいたのか
もう思い出せなかった

編集・削除(編集済: 2025年03月27日 19:37)

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