はぐれ桜 荒木章太郎
はぐれ桜は
大きな幹に
ポツリポツリと
まだらのままに
僕の歴史を映す鏡だ。
人に媚びて咲く花は
この肉にそぐわない。
少年のまま駄々をこね、
あらゆる召集令状を破り捨て、
気がふれたふりをして
乱れながら生き延びてきた
はぐれ桜となり
君を守るために咲くと呟き
その声が届くたびに
春は静かに訪れる
他方で山のような春霞は
過去の神経麻痺させて
現実を否認するため酔い知れる
桜の群れが狂気に変わる
花弁は炎となり
昔は散華を誇りと呼んだ。
今は、揺らされるのではなく、自ら踊る。
それはやがて燃え広がり
焼け跡に残るのは、死の灰だった。
色覚を持たぬ僕は思う。
白と黒は、彩りのことではなく
先鋭化する思考のことだと。
闇雲に、特攻を美とする桜を
色に翻弄されぬように
モノクロに閉じ込めてきた。
はぐれ桜に鳩が鳴く
平和の象徴
清く白を極め過ぎると
己が正義と同一化して
テロルと化して燃え盛る
破滅へと身を捧げてしまう
薄汚れたグレーの鳩は
白と黒の間を飛び、
灰色の羽根で風を抱く。
光と影、正義と悪の狭間で、
モノクロに堪えて喪の作業を慕う
白くも黒くも染まらず、
はぐれ桜の下で、
ほおほおと鳴く
テロルの炎に飲まれぬように
狂気の風に煽られぬように
灰色のまま風に遊ぶ