子どもの情景 上田一眞
海は
どこまでも深く碧い
波静かな青海島 通(かよい)の波止 *1
対岸の野波瀬(のばせ)が霞んで見える
消波ブロックの上から
水中を覗くと
水族館のアクアリウムと見紛うほどに
色とりどりの小魚が群れている
スズメダイ
ネンブツダイ
ニシキベラ
アジ
イサキの幼魚
カサゴでも釣るかと
釣り糸を垂れる
子ども達は揃って大の魚好き
タモ網を使って海中をまさぐっている
娘の舞衣が
変幻自在に泳ぐゴンズイの幼魚を見つけた
いわゆる ゴンズイ玉だ
毒魚で
幼魚であっても刺されると痛い
舞衣がタモ網にゴンズイを追い込んだ
引き上げると
ピチピチ跳ねている
髭があり
まさに海に棲むナマズだ
おかさな〜(お魚)
幼い息子祐が魚を摑もうと手を伸ばすと
天使の声がした
触っちゃだめ!
祐の後ろに立つのは
おかっぱ頭に赤いスカート
サンダル履きの
島の女の子
掌に
透明なクラゲを乗せている
ゼリーのように
柔らかい
小さな可愛いクラゲ
そっと祐の手に渡す
ぷにゅぷにゅして面白い
笑顔が弾け
いつの間にか三人一緒に遊び始めた
透明なクラゲを弄(いじ)りまわし
釣り上げたばかりの
クサフグのお腹を膨らませて遊んでいる
夕陽に照らされた小さな影が三つ
豊かな海に
穢れなき時が流れる
鷗が啼く
ああ もう家へ帰る時刻だ
車に乗り 発進するとき
おかっぱ頭の女の子が家の窓から
手を振っている
さよなら さよなら
いとけない女の子
君の姿はみなの瞼に焼きついたよ
いつの日にかまた会おう
おかっぱ頭の女の子
ありがとね
*1 青海島(おおみしま) 長門市北部にある島
橋が掛かっており車で行くことができる