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スレッドNo.5387

さくら  白猫の夜

昨日までは寒かったのに
急にあたたかくなるものだから
吃驚しちゃってほころんじゃったわ
風がそよいで香りを運んで
ご覧なさいな 明々後日にはきっと満開よ

ところで私の根元で居眠りするのは
一体全体どこのだあれ?
こんなに見事に咲き誇っているのだから
せめて1度くらいは見なくちゃイヤよ

はらり ひらり
いたずらに
はなびらを落としてみようかしら?
ひらり ふわり
起きる気配は全くないわ
くすぐったくはないのかしら?

それにしたって変わったお方
寂れた墓場でお昼寝だなんて
とっても良いご趣味だわ
桜の花さえ目もくれず
ずうっとねむり続けるのだもの…

あら 気づけばもうすぐ満開ね
ね? 綺麗なものでしょう
そう言えばだれかが仰っていたわ
桜の森の満開の下は怖ろしいのだと
まったく失礼なお話でしょう?
まあ 正しいのでしょうけれどね

……ね
かどわかしてあげるわ
あなたがそれを望むなら
この国の人々が思う通りに
私はかどわかしの名人になるわ

隠してあげるわ
見事な桜に死を見立てるぐらい
俗世が非道いところなら
まっさらに隠してあげるから
どうか
色の薄い瞼を開いて
光を灯したびいどろの瞳を見せてちょうだい

…むかしむかしに故人を偲んで
大勢の人が見上げてくれたように
生きた瞳を見せてちょうだい…

知っていたのよ 私
この人の息は絶えていること
わかっていたのよ 私
もう 事切れた人しかここへは来ないこと

知りたくなかったのだわ 私
ひとりぼっちが生き苦しいこと
わかりたくなかったのだわ 私
置いていかれるのってこんなに胸がかき乱されるのね…

どうしましょうね
どうしましょうね
骸はいずれ土に還り
私はふたたびひとりぼっち

どうしましょうね
どうしましょうね……

……世界が見捨てた骸なら
私がもらってしまってもよろしいのかしら……?

骸はかたく 
閉じた瞳はひらかない
胴体はすでに石のようで
腐敗の時は迫り来る
とっさにこの人を覆い隠して
ひといきに私の中へと引き摺り込んで……


時はながれて
幾度もの四季が過ぎ
再び訪れた満開の季節
桜の根元に打ち捨てられた骸は跡形もなく
その身を探そうものならば
ざわん ざわん と
桜が激しく身をゆするのです
ガラァン ガラァン と
サレコウベが激しく頭を揺らすのです

……己が見捨てた人の子を
己の勝手で返して欲しい?
甚だ可笑しなお話だわね
どうぞ おとといいらっしゃって?

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