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スレッドNo.5394

おいなりさん ふつうに好き  松本福広

稲荷神社に住み着いているキツネの僕。
そんな僕の隣にいるのは、犬の「わんこちゃん」
僕は彼女に片思いをしている。
人や、他のキツネから見れば「ふつう」の犬にしか見えないだろう。
どこにでもいる「ふつう」のキツネと犬。それが僕たちだ。
いつものように稲荷神社の片隅で人目を盗んで、こっそりと会う。
こんこんこん
わんわんわん
僕らの会話はきっとこう聞こえるのだろう。
今日はおいなりさんの話をしている。

お腹空いたなぁ。おいなりさんが食べたい。
あなたって、いつもおいなりさん食べたいばかりよね。
いつも食べたいんだ。僕だけじゃなくて家族みんなそうなんだよ。
ご家族の皆さんもおいなりさんが好きなの?
そうだよ。みんな。
おいなりさんって、どれも同じじゃないの?
同じって、どういうこと?
こないだ、人間さんが助六寿司っていうお弁当を捨てていたのだけど、
そこに入っていたいなり寿司。おいなりさんってあれでしょ?
そうだね。それもおいなりさんには違いないね。
それも? 他にもおいなりさんがあるっていうの?
他のもイメージ的には同じ形かもしれないね。
ほら、やっぱり同じなんでしょ?
いや、色々と違いがあるんだよ。
へぇ、例えば?
そう言われて、僕は家族の話をし始める。

僕はとても甘く煮た油揚げを三角にして包んだ
おむすびのようなおいなりさんが好き。
姉さんは皮の色がカラフルなのが好きでね
油揚げと一緒に煮て鮮やかな黄色になったり
抹茶と一緒に煮て緑っぽくなったりしたやつね。
お母さんは中のご飯が炊き込みご飯になったのが好きなんだ。
コンニャクや竹の子の触感がいいんだ。
お父さんは食いしん坊だから、何でもとにかく大きいのが大好きなんだ。

なるほどねぇ。色々あるのね。
そうなんだ。わんこちゃんは、おいなりさん、好き?
うん。私もふつうに好きだよ。
よかった。好きっていってもらえて。
会話が途切れ、僕は道端で見つけたお花を彼女に渡した。
お花?きれい。ありがとう。なんてお花なの?
「キツネノマゴ」っていうんだって。僕の名前の花。
尻尾をふりふりして、フフッと微笑む彼女。

わんこちゃんには言えなかったけど
キツネノマゴを拾った理由は
僕の名前が付いていて面白かったという理由じゃない。
人間さんの親子がキツネノマゴの花を見ながら
花言葉の話をしていたのが聞こえたから。
「あなたはこの上なく愛らしくかわいい」
そう話す親の人間さんは
子どもの人間さんを優しい目で見ていた気がする。

それは、君にも伝えたい言葉だと思ったんだ。
おいなりさんって聞いて、「ふつう」のおいなりさんを想像した君だけれど
「ふつう」の君は僕の言葉を聞いたら、どう思ってくれるかな?
好きって言葉の形に「ふつう」はあるのか
僕には分からないけれど
君がどう答えてくれるのか気になるんだ。


※いなり寿司については下記のHPを参照いたしました。
オーケーフードHP内
いなりずしの文化
https://ok-food.co.jp/learning/

編集・削除(編集済: 2025年03月30日 20:26)

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