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スレッドNo.5398

雉  秋さやか

雉が鳴いていた

集会所のそばを流れる
川の向こう

どこまでもどこまでも
遠くへ届くような切ない声が
咲き出した桜とともに
暖かな空気を
満たしてゆく

視界の片隅では
首を擡げて静かに休む重機が
夕焼けに染まっていた

いつのまにか
切り開かれた雑木林

風景に開けた穴を
灰色に塗り潰しながら

わたしたちの生活は
どこまでもどこまでも
便利になっていく

どこまでいけば
わたしたちは満たされるだろう

どこまでいけば
あの雉の母性を根ざす地は
守られるだろう

ざわざわと
微かな不安を連れて
明るい夜がくる

夜空を駆け抜けるような
貨物列車の音は
人の営みを愛おしく感じさせる

けれどその早さで
時も運ばれていたかのように
わたしがここに越してきて
七年が経っていた

様変わりした町並み
ここがかつてどんな風景だったのか
思い出せないことに気づいて

まだ残されている
何もない場所を
咲き出した桜とともに
写真に収めた

耳を澄ましても
もう
雉の鳴き声は
聞こえない

編集・削除(編集済: 2025年03月31日 07:55)

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