花の咲く道 人と庸
息つくことのない季節は
だれかに話したいなにかをどんどんふくらませるが
話すことはできないので
かわりに花を咲かせる
ほかに手立てのないわたしは
今年も焦燥を漕いで道を急ぐが
花の方が速いので
至るところでさき回りをされている
紅梅はすでに地面にもたくさん咲かせている
草むらには青い星々が瞬いている
雪の最後の一粒かと思ったら
最初の花をつけたユキヤナギ
まもなくモクレンにも灯がともるだろう
同じ痛みが何度もくりかえされるように
花は毎年同じ様子で咲く
聞こえない叫びを発しても 涙をワイパーでぬぐっても
花は見られるもの こちらを見ることはない
※
今日 きみたちは色とりどりの
花の咲く道を歩く
胸の花はつくりものだけれど
人々はそれを見て拍手をおくる
きみたちがこれより進むさきでは
風はどこに向かって吹いているか
みち過ぎた季節の底で息はできるか
不意に風が下から吹き上げてくる
そんななにかの意志のように
花は何度でも芽吹き出すか