光の方へ 朝霧綾め
「光の方へ行こう」
あなたは言う
私の手をひいて
歩き出せる気分ではないのに
私の頬についた涙の跡が
あなたにはちゃんと見えているはずなのに
そんなことを言う
「やめてよ」
私が言う
いらだった声で
でも小さくて細いあなたの手が
少しかわいそうになって後悔する
あなたはやはり私の手をひく
やさしく とてもやさしく
「光の方へ」
静かにそう言いながら
微笑みながら
どうしてわかってくれないの
あなたは私のことを知っているはずなのに
私のことが見えているはずなのに
私の声が聞こえているはずなのに
ああ そうだった
あなたは目が見えなくて
耳が聞こえない
だからずっと微笑んでいる
だから全部知っている
私が泣いていたことも
私が暗闇でずっとうずくまっていたことも
私が光の方へ
行きたがっていることも
あなたは春の光
あなたがいるから私はあたたかい
あなたがいるから私はもう照らされている
そうでしょう?
それを伝えたくて
あなたは手をひき続けるんでしょう?
そう気づいたとき
周りがぱっと明るくなった