春がきた
ごめん
逃げている
ぼくは寂しい
春はうっとりと
クリーム色につつまれて
眠気眼(まなこ)でやってくる
ぼくはひとりで
新緑の並木道を歩く
行き交う人々も
春のかろやかな装いである
ぼくは自我の中心点がふわふわして危うく
だけど春が今年も来たと
初めて思えた日だから
夢の中めいて幸せである
なんだかすべてがぼんやりしているのも
嬉しい
だけど所業は無常で
どこかで本当のぼくが
悲しんで
いるような気がする
寂しさはいつもどうりだが
春のなかに体を交わして
いくぶん逃げている
ぼくはそんな自分を許している
ことしの春がまたそうして
やってきて
桜も少しずつ
咲いてきている
そのなかを
ぼくは
とことこ歩いている
ことしも春が来た
もう四、五日で桜は満開だろう