歴詩篇「忠誠と裏切りの果てに」 三浦志郎 8/26
鎌倉幕府
執権・北条義時
それに次ぐ三浦義村
表の協調
裏の駆け引き
互いに
真の盟友と呼べたかどうか
*
* 鎌倉・鶴ケ岡八幡宮では由々しき惨劇が―
儀式に臨む三代将軍源実朝が甥公暁の凶刃に倒れた
公暁は実朝の首を高々と掲げ こう叫んだ
「親のかたきはかく討つぞ!」
公暁は謀殺された前将軍頼家の遺児
義村は公暁の乳母夫 公暁の後ろ盾は三浦
公暁をたきつけたのは三浦
「御父上を討ち実朝様を立てたは北条ですぞ」
義村 公暁を唆す
実朝暗殺の
裏にいる
深くいる
義時は逃れた
太刀持ちを代理に任せ八幡宮参列を外れた
実朝と自己の身の危険を察して
体調不良を訴えて(仮病だったろう)
どこで秘密は漏れたのか?
公暁は駆けた
実朝の首と共に三浦邸へ
(三浦がわしを将軍にしてくれるわ!)
義村 (実朝と共に義時を―)
の謀略外れ
御家人筆頭の正義に戻らざるを得ない
(弑逆人は討たねばならぬ)
同時に
自己の暗躍の揉み消しを命じる
長尾定景(後の上杉謙信の遠祖)を召し
「公暁殿の首 頂戴せよ」
裏切りである
かつて同族をも裏切った
義村 心中 事もなげに
裏切りと忠誠が両立する
義村 公暁の首を義時に差し出し
盟友としての顔を繋いだ
あるいは 権力を知るもの同志
相謀っての企てだったかもしれない
二人は裏の全てを知りつつ
胸に秘め 提携はなお続く
*
幕府は存亡の危機―承久の変を
三浦の忠誠を得て乗り切り
義時は病死
義村は長命
三代北条泰時が執権を継承した
義村にとって泰時は若輩にして元・義理の息子
滅ぼそうとすればできたはずが
彼は権勢を誇ったがそれをしなかった
「御成敗式目」制定にも名を連ね
忠誠に実があったのか
老いて機鋒が鈍ったか
*
世評 「三浦の犬は友を喰う」と言われた
忠誠と裏切りの果てに
義村 今も本性 明らかでない
歴史の向こうで霧の中
当時の人々にも謎だったろう
わが身を晦ませ世を翻弄したか
存外 見抜いていたのは
かつての“盟友”義時だったかもしれない
*
*「北条を倒すことこそ
我ら積年の願いではなかったか!」(三浦光村)
義時・義村すでに亡く
それぞれ代が替わり
北条・三浦
紐帯はすでに過去
後年は覇権を争った
宝治元年
三浦は北条に滅ぼされる
そんな歴史だけが残った
鎌倉時代も中期に入っている
* 源実朝暗殺の真相は今もって謎と言ってよく、
ひとつの仮説から本作品を構成した。
* 大河ドラマ「北条時宗」の初回に出演した、
俳優・遠藤憲一のセリフ。