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スレッドNo.5470

君と白い手の中で  佐々木礫

僕の最終目的は、
潰れた家畜小屋の下で流血した人間を見て、
心からの嘲笑を浴びせてやること。
彼らの飼料は、家族、恋人、友人、
仕事、アルコール、ファッション。

僕には堪えがたく生々しい、
濃い血液の入り混じる、
充実した人生の要素。
血の味が苦手な僕には、
身体的な感動は刺激が強く、
それを概念化して緩和した。

本質に思いを巡らすこともなく、
それらの概念を屠殺し、
ただ何となく食して来た。
しかし、咀嚼した筈の概念は、
僕の臓物を内側から圧迫して、
全く消化されていないのだった。

そして、僕の栄養不足の生命は、
これまでに蓄えた未使用の色彩を消費して、
永遠の停滞へ向けて白骨化を始めた。

鉛筆デッサンのような灰色の太陽が、
全存在の真上から照り付ける。
その光の元に、草原の獣たちは、
毛が抜け落ちて、肉は痩せ細り、
緑の草も灰色に変わり、
枯れたコスモスの影が踊り出す。

それを眺める僕は、周囲の人との接続を持たず、
伝わらない孤独は、何よりも凡庸な感想を導く。
寂しい、シにたい、やっぱり生きたい。

全く、つまらないよ。

どうか孤独者よ、生を愛するな。
君の手にある、たいそう美しい記憶の亡骸、
それを抱いたままでいてはいけない。
その縫いぐるみの次は自分だ。

もう、死はすぐそこにある。
「メメント・モリ」とは言うまい。
「死を忘れるな」とは、あまりに陳腐だ。
僕らは既に、死神の手の中に。
石灰岩のような手のひらに、
乾いた白い流木のような指。
その手の中で夢を見るのだ。

孤独者よ。
僕と君が出会えば、
そこに言葉は無く、
ただ木魚の音のみ響く。

そこは例えば、
家具の無い空き家の一室。
空のコーヒーカップを手に、
空虚なおままごとをしよう。

生の素晴らしさを興奮気味に、
死の意味を神妙な顔と声色で、
真剣に語るふりをしてから、
互いに力強く微笑んで、
分かり合えたふりをしよう。

ナンセンスな言葉の響きを、
何よりの福音として聞こう。

それが、死を望まず、
生きることもままならない、
無能な僕らに残された時間、
処刑前の過ごし方の最善だ。

編集・削除(編集済: 2025年04月08日 08:22)

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