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スレッドNo.5501

科学者の誤算 上原有栖

一人の科学者が命を絶った
動物を愛した彼は
ある発明品を遺して逝った

『アニマルトランスレータ(動物の翻訳機)』
それは動物と人間の架け橋になるはずだった
後に残されたのは記録映像と
装置に貼られた「廃棄せよ」というメモ

助手は記録映像を再生する
映っていたのは科学者の調査風景だった
まずはケージの中のマウス
次に動物園の檻の中で暮らす動物たち
更に空に飛び去る渡り鳥の映像が流れた
科学者はそれぞれ声を採取していったようだ

この世から去った科学者の声がする
「次に採取した動物たち鳴き声の翻訳を流す」
先程の映像に合わせて翻訳音声が流れてきた
その内容は━━━━━
動物たちから人への痛烈な罵倒だった
誹謗中傷に続き 罵り声 悪口 嘲り 皮肉
映像は真っ黒な悪意に彩られていた
画面が替わり科学者の顔が映る
目には涙
動物を愛した男の涙
「この発明は間違いだったのだ」
「動物の言葉を人間が理解できると動物たちに気付かれてはならない」
「私はもう耐えられない後の事は君に任せる」

映像は終了した
助手は放心して俯く 信じたくない
先程の映像と音声を思い返してみる
実験で傷付いたケージのマウスを
群衆にからかわれる檻の中の動物たちを
油や捨てられたゴミで汚れた渡り鳥の姿を
私は見てしまった
映像に見え隠れする人間の罪を
私は知ってしまった

研究所の隅のケージ
そこには━━━━━
こちらに向かってキーキー喚くマウスがいた
助手はこれから何を為すべきか
マウスの紅く血走った目をじっと見つめて考えている

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