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スレッドNo.5522

Tasting Note : 『直喩的回想の風味』

朝日が昇る。
今というリビング。
青い後悔の手紙を手に、
微笑してそれを読みながら、
孤独の焙煎を一口飲む。
それに少しの贅沢、
ふんわりと焼かれた、
罪のスフレを一つ注文。
先の安眠を想起させる、
少し甘くて、やさしい香り。
二口で食べ切れてしまう。
一息ついて上を見上げれば、
斜めの天窓から青空が覗く。
そうして私は、
神の右手が私の首を、
締めに来る日を待っている。
どうかそれは、
酪農家が牛の乳を搾るように自然に、
それも早朝の青空の下で行われたい。

夕陽が輝く。
今日はこれ以上何もない、
世界終端のバルコニーからは、
美しい夕日と海が見渡せる。
希望の紅茶は、
透き通っていて味が薄いので、
濡れた砂浜のミルクティーを淹れる。
お供には、
海辺で奇麗なガラス片を拾った、
幼年の思い出バタークッキー。
口内に飽和する優しい過去に、
平手打ちをする母親の心象。
ティーセットは倒れて、
テーブルから落っこちて割れた。
中身は排水溝から流れて行った。

月が高く舞う。
銀食器の音が美しい、
賑やかな教室レストラン。
各々が思い出を咀嚼する。
「夜は手が込んでるみたいだね。何食べてるの?」女生徒に聞かれた。
しかし答えずに、
ナイフとフォークを携えて、
専属シェフのディナーを静かに味わう。

前菜 : 「いまどうしてるかな」
――
 無難なサラダに、恋の不連続性を添えて。
 主役は甘みのあるロメインレタス。
 小さく切ったアボカドと、選ばなかった後悔。
 愚かなじゃがいもは、丁寧にマッシュに。
 好きよりキスのミニトマトは酸味のあるペーストにして絡めます。
 仕上げは自信がないオニオンソースと、強がりのソイソースをお好みで。
――
メイン : 「青春の丸焼き」
 生っぽい記憶をじっくりと青年期の樽で熟成した後、
 高温のガスバーナーで表面の恥ずかしさを炙り焼きにして仕上げます。
――
デザート : 「"きっと幸せ”のチェリーケーキ」
 ブラックベリーのあとを引く甘酸っぱさと、ラム酒のしみ込んだケーキの生地が逸品。
 絶対に一口では終われない誘惑の、「食べやすさ」を備えております。

一つ一つ平らげた後で、
「ねぇ、美味しかった?」また後ろの女生徒が聞く。
私はまた答えることなく、考える。
言葉で返す代わりに、
君を抱きしめて絞り出す果汁を飲みたい。
そんな衝動的な余韻が残る。

星の独壇場、
一日の終わり。
なんの感慨もなく、
寝室の窓からビル群を眺めては、
ミニテーブルに目を落とす。
ランプシェードが照らす銀の灰皿、
眠気を誘うスコッチ・オンザラ*。
煽れば下品な美学が躍る。
Montecristoに火を点けて、
曖昧な煙で燻製にした、
「ヤギのラムレーズン」を噛みしめる。
さらさらと二杯、三杯進み、
泥酔した言葉のカクテールを、
流しそうめんみたいに吐き出して、
ペン先でちょろっと捕まえて書く。
「全幸福の晩酌!今日も何もなかった。全幸福の晩酌!」

*オン・ザ・ロック

編集・削除(編集済: 2025年04月16日 15:38)

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