gold moon/とある青年の独白
コールタールで染まったような、星ひとつ見えない真っ暗な夜空。
それでも月だけは存在感を放っている。
黄金色に輝く月を見て、単純な俺は思う。
「あそこに黄金があるに違いない」と。
街を歩けば、ナイフをちらつかせる奴らばかり。
時折、銃声が響く。
誰もが獲物を探す目つきで、内輪にだけはフレンドリーだ。
だが、どこか腹を探り合っている。
お世辞にも上品とは言えない治安の街。
俺はそこで生まれ育った。
こんな街で生きるには、成り上がるか、一発当てるしかない。
腕っぷしもコネもない俺には、一発当てるしか道はない。
だから、輝く月に希望をかけた。
あの月には、夜も眠れないほど眩しい黄金があるはずだ。
勉強? 好きじゃない。
でも、月に行くには学が必要なんだろ?
それくらいは俺にも分かる。
本ってやつは、まるで眠り粉をまく生き物だ。ちくしょう。
こんな本を作る奴らは、誰も彼も俺に月に行ってほしくないんだろう。
(中略)
勉強の途中で「日本」って国を知った。
変わった国だ。
治安は抜群に良いらしい。一人で夜の街を歩いても、警察に袖の下を渡さずとも安全だ。
そんな国なのに、仲間意識は強いが、個人はバラバラ。まるで俺たちの街みたいだ。
有名なコミックも読んだよ。
それによると、日本はジサツが多く、先行きが見えない悩みを抱える子どもや大人が多いらしい。
子どもは学校や会社の選択に悩み、大人は生活苦に喘ぐ。
病気は別として、なんて贅沢な悩みだ。
俺はいつも金がなく、学校や会社を選べる身分じゃない。
死にたければ、街を歩く厳つい奴に唾を吐けば、鉛の弾で返してくれそうだ。
(中略)
文字が読めるようになり、難しい本にも手を伸ばせるようになった。
ようやく月についての本を開いた。
最初は科学的な話がちんぷんかんぷんで、すぐに閉じた。
苦労して分かったのは……月には黄金なんてなかったこと。
湖と呼ばれる場所にも水はなく、一色の荒野が広がるだけだった。
生きるためにしがみついた、か細い希望の糸。
それが切れたような気がした。
希望が多すぎる日本人。
希望が少なすぎる俺。
希望の数は、いくつあればいい?
希望の質なんて、分からないまま生きてきた。
ジサツを選んだ奴らは、どんな希望の質があれば、
世界を美しいと思えたのだろうか。
※ジサツの表記は掲示板の仕様のためカタカナで表記しています。