許しの傷 温泉郷
ガラスの割れる音
床に散った白い破片
子どもが割れた皿を見ている
モップを持った店員
客の視線が集まる
子どもはじっと
割れた皿を見つめている
トイレから出てきた母が
割れた皿を見て
子どもを叱り
会計をして
その手を引いて
店を出ようとする
子どもは出ようとしない
母は強く手を引き
出口に向かう
子どもは
振り返り
振り返り
何度も振り返り
言いたかった一言が
言えないままに
泣き出して
店を出て行った
最後まで振り返りながら
先生の言葉がよみがえる
子どもはそんなに傷つかないと
思ってはいけないよ
子どもはやさしいから
傷ついても許して忘れる
子どもの傷は
傷つけた人を恨まない
許しの傷だ
でも大人になると
また
血がにじむことがある……
今日
あの子にも
小さな許しの
傷が残った
大人たちの小さな古傷が
その痛みを受け取った