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スレッドNo.553

川向こうの森  荻座利守

町はずれの川向こうに
黒々とした森があった

森は遥か古代からの
生き残りであった

森には思想があった
森は数百年
数千年ものあいだ
ずっと考え続けていた

だがそれは
樹 草 苔 虫 鳥 獣
土 雨 雲 風 陽 月 
みなそれぞれ異なる
時と想いが
重層し
円環して

人とは全く異なる
言葉と時間で
考えられたものであった

それ故に
人はその思想を理解できず
その思想が存在することさえ
知らなかった

しかし時おり
森の思想を
知ろうとする者も
幾人かは現れた

だが森にとって人は
おさなご同然であったため
その思想を充全に
理解できた者はなかった

それでも森は
何も不満には思わなかった
少なくとも
森に思想が存在することは
知られたのだから

人には人の
言葉があるのだから
この先何世代にもわたって
すこしずつ
理解してゆけばいい

森には森の
時間があるのだから
この先じっくりと
理解されるのを
待つことはできるだろう

川向こうの人間が
この先
森の思想の存在を
忘れないかぎり

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