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スレッドNo.5530

芸術  相野零次

 優しい朝によく焼けたパンを一枚食べる 香りのよいコーヒーを味わう 朝の光に包まれるとそれだけで幸せを感じる よく晴れた青空にはさまざまな形の雲が浮かんでいる さながら博物館や水族館や動物園のようだ 不意に雨が降るときもある 傘をひらいてぽつぽつと傘に落ちる水滴のハーモニーに耳を澄ます 雨のあとに小さな虹がかかり空を彩る 自然はそれだけで一枚の絵画となる
 雨がすっかりあがったあとの透き通った青空は心をどこまでも遠くへと旅立たせる 夕方には西日がさして茜色の空に眼を細める 夕日はさまざまな郷愁を誘う ここが生まれ故郷だというのにまるで遠い異国に何か忘れてきたような気がする 暗くなると夜空を星が彩る きらきら光る星の数が想い出の数そのもの 
 朝昼夜の繰り返しは人生の繰り返し 繰り返される人生のなかで僕は何を得て何を失っているのだろう やがて全ての存在が永遠の眠りにつくそれは朝でもなく昼でもなく夜でもなく 新たな地平線や水平線へと旅立つのだろう 四季の存在も忘れてはいけない 春には桜が咲く 夏には海へ泳ぎに行く 秋には紅葉に彩られ 冬には親しきものたちが身体を温め合う 
 人生とは何て美しいのだろう しかしこの美しさの全てを感じて受け入れることはできないのだ だから人は芸術を生み出した 絵画で彫刻で写真で 肉体で衣服で 言葉で歌で踊りで 詩で小説で その他さまざまな表現で 通り過ぎてしまう美をなんとか形にして留めていくのだ
 それは僕も同様だ 人生の美しさを僕は形にして残したい だから歌をうたっている 詩を書いている 恋や愛の詩を描きたい それを好きな人に贈りたい 一枚の恋文を素敵な散文詩として残したい それはまた別の機会に考えよう 今はただ詩を描くという儚い喜びと美しさを伝えたい
 世界には言葉が満ち溢れている そのなかのひとつ 挨拶も僕は芸術だと思う おはよう おやすみ こんにちは さようなら ごめんなさい ありがとう 挨拶と挨拶のあいだにはさまざまなドラマが秘められているのだ これらの挨拶は朝昼夜の繰り返しそのものを表している そして生きることは芸術との出会いと別れの繰り返しだ さまざまな人との出会いと別れの繰り返しだ
 切なさと喜びがないまぜになって繰り返される その美しさを後世に残したい そして僕は僕の人生を終える 神様に与えられた役割を終えて次の世代へと伝える 僕はまだその術を知らないがいつか分かり合える人と出会いたい その人に生涯最後のさようならとありがとうを伝えたい
 今はただ平凡のように思える今日を終え明日へ向かう
 明後日を迎え一週間を迎え
 一か月を終え一年を終え
 十年を越え 百年を超え   
 そのあとのことは僕は知らない
 さようなら今日の僕 さようなら今日のみんな
 さようなら今日の僕と過ごした芸術たち
 今はただ疲れた心と身体を癒して
 明日もまたお元気でおやすみなさい

編集・削除(編集済: 2025年04月17日 23:12)

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