末端 津田古星
前の職場で疲れたので
なるべく人と関わらず
物や数字と仕事をしようと
専門学校に半年行ってから
もう一度東京に出た
再就職先は小さな設計事務所
女性社員は先輩とわたしの二人だけで
人の描いた図面の修正ばかりしていた
そのうち仕事が多くなってきたらしく
男性社員は徹夜して
いよいよ手一杯になったからか
資料の束を渡されて
「これで描いて」と
一から図面を描くことになる
原子力発電所の建屋の図面を描くのが
会社の仕事だった
仕事を発注するのは大手プラントメーカー
わたしは原子力のことも発電所のことも
何の知識もない
ただ 言われるままに
資料に沿って描くだけ
現地に行ったこともなければ
原子炉がどういうものかも知らなかった
ふるさとで結婚するために
一年半後に退社
さらに28年後 テレビで
水蒸気爆発の映像を見ることになるとは
28年前に戻ってあの映像を
同僚に見せることが出来たなら何と言うだろう
こんなことになるとは誰も信じないだろうし
自分たちはメーカーの言うままに
仕事をしているだけと言うだろう
そしてメーカーは
電力会社の仕事を受けただけと言うのだ
国策という嫌な言葉は
戦前のものだと思っていたのに
21世紀になって
原発は国策だったからという人がいる
電気がなければ困るけれど
原発は本当に必要だった?
漏れ出た放射能は決して消えない
木の葉についた放射能や
土についた放射能も
洗い流そうと 削り取ろうと
どこにも消えていかない
空気も水も海も
ただ薄まっているだけ
わたしの任された図面は
福島第二原発4号機電気室
福島第二原発も
震災後すぐに廃炉が決まった
それだけは安堵したが
人に関わらない仕事なんてないのだ