ブラザーフッド 上原有栖
「なあタバコをくれないか」
「今度会った時に返すからよ」
お前が煙草を切らすなんて珍しいじゃないか
差し出したマールボロを吸う横顔は
何か隠しごとをしているな
言葉にしなくても俺には分かるんだよ
どうした、という言葉を俺がかける前に
火を消したお前は背を向けて歩き出す
「どうした」
去っていく背中へ一拍遅れて投げかけた言葉に
返ってきたのはヒラヒラと振り返された
手のひらだけだった
こっちを向けよ、コノヤロウ
何かあったときに背中を預けられると思ったのは
後にも先にもお前ひとりだけなんだ
話せば何かと馬が合った
年の離れた兄貴より兄弟らしいとさえ思っていた
お前がいるから今まで歩いてこれたんだ
泥だらけでも、傷だらけでも
ふざけあって、笑いあって
お前と出会って人生が輝きだした
何があったか知らないが
俺がいることを忘れるなよ
辛いとき苦しいときは声をかけてくれ
いつでも準備は出来ているから
それ以来お前からの連絡は途絶えてしまった
伝手を頼って調べてみたが何も分からないのだ
俺のマールボロを吸う本数だけが増えていく
まったく、いったいどこで何してるんだ
なあ貸した煙草、早く返しに来いよ
話したいことがたくさんあるんだ
お前はその話をニヤニヤしながら聞くんだぜ
そうさ、分かってる
お前のことは俺が一番よく知っているんだから