隣で眠る君に 荒木章太郎
朝目を覚ませば
言葉を失っていた
意味がなくなっていた
全てが鳴き声となり
となりで君も音になった
君の鼾に伴走していた
もうそこは海辺ではない
息の根が止まりそうな
無重力地点で
理解しがたい海から
息継ぎをしに上がってくる
君を待つ
お互いが月のように
裏側を見せないものだから
でこぼことした海の底を
垣間見ることは孤独でしかない
潮の満ち引きに合わせ
君は目覚めることのない夜に
向かっていた
僕は横隔膜を震わせてみる
カエルとなり
コオロギとなり
全身を震わせてみる
鳴き音が出た
感情を振動に乗せて
音が波であることを感じて
光も波であることを識る
波だ、涙あふれて
光となるように鳴る
眠る君に触れず
それでも届く波を信じて