二人の部下 こすもす
四月に会社の人事異動があり
二人の部下が私の部に配属されてきた
Yさんは要領がよくSさんは要領が悪かった
私は上司として二人と仕事をすることになった
Yさんは頼んだ仕事を期日までに必ず仕上げてくる
Yさんが作る書類はミスがなく完璧だ
かたやSさんは仕事を頼んでも期日までに出来たためしがない
再三催促してやっと出来上がる
しかもSさんの書類はミスが多かった
次第にYさんにばかり難しい仕事を任せるようになり
Sさんには簡単な仕事ばかり任していた
しばらくすると彼らの仕事以外での性格もわかってきた
Yさんは気難しい性格で近寄りがたいところがある
一方Sさんは明るい性格で冗談を言って周りの人を和ませていた
そんなある日Yさんは会社に来なくなった
Yさんはうちの会社より条件のいい会社に移っていた
この会社は自分には物足りないと他の社員にこぼしていたらしい
半年ほどしてYさんは移った会社を辞めたと風の便りで聞いた
なぜ辞めたのかは誰も知らなかった
そこを辞めてからYさんがどうしているかはわからない
それからはSさんと一緒に仕事をすることが多くなった
相変わらずSさんのゆっくりしたペースにはやきもきさせられる
ただSさんは前よりミスをしなくなっていた
ミスをなくす努力をSさんは見えないところでしていた
Sさんに少し難しい仕事を任せてみようと考えるようになる
何年か経ってSさんは他の部に異動した
年月が過ぎ私は会社を定年退職した
退職して一年が経ったころ会社にいる人間と会う機会があった
その人が最近の会社のことを話してくれた
Sさんはかつて私と一緒に仕事をした部の部長になっていた
上と下との板挟みでなかなか大変なようだ
それでも持ち前の明るさでなんとかやっているらしい
その話を聞いて思わず笑みがこぼれた
「あのSさんが部長か…世の中わからないものだな」