無音の叫び 温泉郷
連休の歩行
S通りの向かい側のビルが
突然閃光とともに
はじけて散った
音はなかった
スーパーが入っている
隣の8階建てのビルは
二つに割れて
地上にごろごろ重なった
やはり音はなかった
通りを走る車の列に
何かが落ちて
みな 横倒しになり
路線バスのタイヤは
焦げて 黒い煙
住宅地では
家が焼けて
病院がだめになっていた
すべては無音のままで
突然
車の音
風の音
人の声
が戻ってくる
割れたビルは
何事もないようにもとに戻り
車列はいつものように
いらだたしげに走り抜け
小学生は帰宅して
食事を待つ間ゲームをしている
病院の待合室を
看護師が小走りに横切る
スーパーの商品の値上がりに
買い物客が舌打ちする
凝縮した瞬間の想念が
遠い空を伝わって
かすかに届く
最期の焼け付いた無念が
遠い空を伝わって
かすかに届く
世界中で誰かがそれを受信する
空中から見下ろす者
無音のイメージの後を追って
かすかに 声が聞こえてくる
声は世界中をめぐって
必要な場所に確実に戻っていく