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スレッドNo.5696

青の旅人  松本福広

某(それがし)に名前はない。
時に豆蔵、五分二郎、一寸法師などと
呼ばれている。
その時々、呼ぶ者によって某の名前は変わる。
今は気ままに旅をしている。

テレビで見かけたら
ネモフィラがきれいに咲く場所へ。
お椀の船旅では海原は越えられず
潮風に吹かれる若葉につかまり
空路にてやってきた。

道中の天気は晴天なり。
空はどこまでも透明な青さを反射させ
海はどこまでも深みのある青さを沈ませて
遥か遠方に青の境界線一本が
異界への彼方のようである。

海岸沿いの街に
ネモフィラが咲き乱れる丘が見える。
地面が空を写したような色に染まっている。
空の青だけではなく
雲の白を降らせたようなネモフィラの群れ。
その一輪に某は降り立つ。

吾輩の背丈からすれば
ネモフィラの一輪でも
目の色を青に染める。
若山牧水氏の白鳥の短歌を思い出す。
白鳥の孤独が此処にあるようである。

空も、海も、地面も
すべてが青に染まる世界の中に
某だけが一輪と同じでしかない。
無限かのように青が注がれる中に
若葉を傘のように差す某の色が孤立している。

青を普段から意識していない。
でも、世界は青に流れている。
某の視界を染める青。
某の周りを包む青・青・青。
此処だけはなく空と海が青を繋ぎ
世界の青へ繋がるような錯覚。

青の迷宮を作るような
ネモフィラの群れが
風にせせらぎ
あざ笑うような音に聞こえて
目を覚ます。

小さな個である某が
空に繋がる感覚
その孤独が丘の片隅に転がっている。

※補足
舞台は 茨城県にあるひたちなか海浜公園
みはらしの丘 ネモフィラより
写真はフリー素材サイト フォトACより

ご存知だとは思いますが、若山牧水の短歌もあわせて。
白鳥はかなしからずや空の青海のあをにも染まずただよふ

編集・削除(編集済: 2025年05月16日 06:03)

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