評ですね。5月9日〜12日ご投稿分 雨音
「トラネタリウム」松本福広さん
松本さん、こんばんは。今日は終日雨が降っておりました。
トラ座ってないのね、と調べてみましたが、オリオン座に白虎がそっと潜んでいるようです。とはいえ、黄色くて黒い縞々のトラは松本さんのおっしゃるようにいないようです。色々調べ始めるときりがない深く面白い星座の世界で、私もひととき遊ばせていただきました。
佳作一歩手前です。何より星空を眺めて、絶滅危惧種の虎を思い、そして、命を思い、ふとした考え事が広い世界に繋がっていく感じがとてもよかったです。一歩手前、の部分ですが、もう少し推敲をお勧めしたいなと思いました。松本さんはきっと普段文章を書かれる時に一文が長いかもしれませんね。頭脳明晰な方に多いことなのですが、この詩の中ではそれがちょっと仇になってしまい主語が迷子になっている箇所がありました。たとえば二連です。
虎がライオンが開けた場所で
群れで暮らすのに対して
藪の中などでひっそりと
→ここの部分、書き換えるとこんなふうかなと思いますが、私の解釈であっているでしょうか。
ライオンが開(ひら)けた場所で
群れで暮らすのに対して
虎は藪の中などでひっそりと
こういった箇所が他にもありましたので、少し読み直してみてくださいね。それから、この作品は全体の重みがどちらかというと均一になっていて、星の話、虎の子供の話、セロ弾きのゴーシュ、星の話がもう一度、と言う感じで、全体は上手につながっていますが、どこかを少し軽くするといいかもしれないなと思いました。私が選ぶとしたらセロ弾きのゴーシュの話の部分を少しさらっとさせます。これは好みですので、参考までにしてくださいね。それにしてもタイトルが秀逸ですね。
「共犯」上原有栖さん
上原さん、こんばんは。お待たせしました。
故郷へ向かう逃避行、駆け落ちとは逆かもしれませんね。出奔かな。いずれにしても、タイトル「共犯」がとても効果的なドラマチックな作品だと思いました。佳作一歩手前です。
とてもよく書けています。提案としては「この計画」についてもう少し示唆するものがあると読者が感情移入しやすくなるかもしれませんね。多分、何か後ろ指を指されるようなことがあったのだろうというのはもちろんわかるのですが、二人だけの甘美な世界との対比として、それがどれほどのことか、という濃さのようなものが伝わると、より、二人だけの世界が際立つように思えます。人の心ってやっぱり毒も持っています。どんなにいい人でも多分。ですが書かれている通り、赦されなくても、理解されなくても、それを肯定することが生きていくことにつながります。そんなメッセージを感じました。
「不毛の町」荒木章太郎さん
荒木さん、こんばんは。お待たせしました。
これはなかなか奥の深い作品ですね。荒木さんらしくてとても良いと思います。佳作です。最終連の「なのだな」のリフレインを外して、もう少し失うもの、壊すもの、という部分にフォーカスするとさらに良くなると思いました。他は直すところはないと思います。この作品の中にある今の世の中を覆う不透明感のようなものがとても伝わってきました。何より、ほおほおと羽ばたく・フクロウになり、からの連はとてもよかったです。
余談ですが、「あらき」で変換すると、荒木さんのフルネームが出てくるようになりました。
「心の洗濯」こすもすさん
こすもすさん、こんばんは。外は強風です。
本当ですね。とても共感する作品でした。心って時折、とても色々なものを吸い込んでしまうことがあります。それは決して汚れではないのだけど、洗って青空でふんわりとさせたいですね。誰もがそういった切り替えのきっかけで、前に進んでいくのかもしれません。とても良い作品だと思います。おまけの佳作です。とても良い作品なので、さらに良くするのにどうしたら良いかなと考えてみたので参考にしてみてください。二連に並べた負の思いですが、この気持ちが起こったきっかけが具体例として短く、冒頭に入るとぐっと引き込まれるかもしれません。しょんぼりするような出来事が起こって、自分の中にそうした負の思いがいつの間にか重なっていたことに気づく、そういえばこんなのもあんなのも、とどんどん辛くなって、でもその時、お洗濯をするという技で気持ちを切り替えていく、こんな感じにストーリーがはっきり見えてくると感情移入がしやすいような気がします。参考までに。
「母の戸籍」津田古星さん
津田さん、お待たせしました。こんばんは。
とても良い作品ですね。佳作一歩手前です。
実は今日は父の命日なのです。そして、私も父の戸籍を取り寄せた時に同じような経験があって、古い戸籍には色々なドラマがありますね。私たちが今、ある意味豊かに暮らせるのは、こうした歴史があってこそなのだなとジンとした気持ちになります。この作品は何より事実が淡々とかたられていることが良いと思いました。感情的にならずに語ることでより一層感じられることもあるというお手本のような作品です。樋口一葉は決して唐突に出てきたわけではないですが、この部分を少し推敲されるといいかもしれません。この連にたくさんの出来事が入っているので、それが少し唐突な印象になってしまったのがもったいないかなと感じました。説明を端折って、思いを馳せてしまってもいいかもしれませんね。参考までに。
「狂っちまった世界」相野零次さん
相野さん、こんばんは。お待たせしました。
狂っちまった世界なんだなと思いながら読ませていただいて、けれど、狂ってないかもしれないななんて感じたりもしたのです。最終的にチーズになったところが一番引っかかったのですが、「狂っちまった世界」だから仕方ないか、なんて思ったりして。このタイトルはかなり良い意味でずるいですね。この作品はとても良いバランス、ぎりぎりに均衡を保っています。最後のトマトが爆発しモッツァレラにならなかったら文句なしだったのだけど、これがやっぱりなんとなく最後に残念だったのでおまけの佳作です。本当のことを言うと、おまけ、の部分は別のところにあります。この作品はサイケデリックな感じにまとまっているので、ぜひ連を分けて空白(息継ぎ)を作っていただけると良いと思います。一行も長いので、それによって、読み手が深く考える時間が生まれます。また、足し算していった作品だと思います。少し引くことで、起伏が生まれて、読む方がずっと頑張らなくて良くなります。イコール、この作品の良さが伝わりやすくなる、と思いました。といってもこれも好みの問題かもしれませんね。熱情を込めて込めて、爆発するトマトというイメージにするのなら、最後は無機質にするといいのかも。お皿が空っぽになるとか。相野さん、この作品、私はとてもいいなと思いました。ぐっときた部分もありました。
「憧れ(一人暮らしⅡ)」樺里ゆうさん
樺里さん、こんばんは。今日も一日が終わりますね。
なんだかとっても素敵な世界にお邪魔させていただいたような作品ですね。佳作です。次回からちょっと厳しくなるかもしれません。全体的なバランスもとても良くて展開も良くできていると思いました。直すところは特にないのですが、一つだけすごく大きなおせっかいになりそうなアドバイスをさせてください。樺里さん、普段の話口調で、この作品をちょっとリライトしてみてほしいんです。(見せていただく必要はありません、ご自身でやってみてください)そうするともしかしたら、この作品よりも少し柔らかい感じになるのではないかなと想像しています。多少修正がさじ加減として必要かもしれませんが、その自然な柔らかい口調に寄せてみてはどうかなと感じています。内容がとても伸びやかで柔らかい雰囲気で、多分それは樺里さんご自身の雰囲気から出てくるものだと思います。それってとっても素敵です。読んでいて嬉しくなるような作品でした。
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終わりに。
新緑が美しいですね。山がこんもりしていて、みるたびにほっこりします。
季節の変わり目、皆様お元気にお過ごしくださいね。
島さんにわがままを聞いていただいて、6月はお休みをいただくことになりました。
快くピンチヒッターを引き受けてくださった澤一織さんと秋冬さんに心からお礼申し上げます。
ありがとうございます♪