MENU
1,309,209

スレッドNo.5706

ひとときのうた 津田古星

人間の子供が「ハムちゃん」と呼んで
ひまわりの種をケージの中に入れ
給水器に水を満たす
人間は私達の仲間をハムスターと名付けた
ハムスターだからハムちゃんとは
何と安易な名付け方か
まあいい

安全と餌と 水と回し車があれば
私はどこで誰に飼われても気にしない
昼間はゆっくり休んで
夜が来れば運動の時間だ
子供は私を丁寧に扱うし
7日に一度はケージを掃除して
私に外の空気を吸わせてくれるから
ちょっと庭を散歩する
概ね快適な生活と言える

夏も盛りとなったある日
私はケージごと大きな乗り物に乗せられて
着いたところが 別の家で
ここには大人4人と子供2人がいた
今まで暮らしていた家の3人は
私を置いてどこかへ行ってしまった
今日からここで暮らすのか
まあいいさ どこでも

ここの子供のひとりは少々乱暴な奴で
ケージの中に手を突っ込んで
いきなり強くつかんできたので
指に噛みついてやった
そのタロウだかジロウは翌日になると
もう私に興味は失ったようだが
ひまわりの種はきちんと補充してくれた
3日目になると給水器の水がなくなった
おうい 水がないようと言っても
誰も給水器を見ないで
ひまわりの種ばかり増やす
私は静かに体力を温存することにした
翌朝もう1人の子供 ハナコだかカナコが
やっと気づいて水を入れてくれて
脱水症状は解消した

その夜 元の家族がまたやって来て
私は前の家に戻った
やれやれ やさしいよっちゃんは
短い旅に出ていたものか
平穏な暮らしが帰ってきた

そして私は眠りにつく時が近づいたから
ひまわりの種も欲しくないし
水も飲めなくなった
そっと撫でてくれても もう遊べないよ
よっちゃん
またどこかで会おう

私の身体は
庭の花梨の木の下に埋められた

編集・削除(未編集)

ロケットBBS

Page Top