評、8/19~8/22、ご投稿分、その1。 島 秀生
残り6作は、日曜朝に。
●エイジさん「眠そうな子供たち」
1~3連まで、凄く良いと思います。ちょいとギターのテクニックも見せながら、それも「お父さんの得意だった」の象徴になるから、違和感なく組み込んでいます。
また今回のオオマトペは、上手に取り入れてきました。キレイです。1~3連までは凄くいい感じに書いてるなあと、感心しながら読んだんですが、終連がボロボロに思う。
終連が、ものすごく乱暴というか、大雑把に書きすぎと思います。
お父さんは天にいます
↓
だから おやすみ子供たち
この流れだと、子供たちも死んじゃいますよ。
あいだの言葉をはしょりすぎだと思う。要するに、お父さんはいないけど、今もそこでギターを弾いていますよ。だから安心してお休みなさいってことを書かないといけないんじゃないんでしょうか?
だから おやすみ子供たち
↓
休暇届を出しましょう
いきなりサラリーマンになりました。
ここ、サラリーマンにする必要あったんでしょうか? 終連に来るまでは、もっと小さい子がまどろむ姿をイメージして読んでたんですが・・・。なぜ、休暇届???
まず標準的に直すべきは、こういった部分です。
でもこの詩って、終連の持って行き方によっては、ぐんと良くなる、化ける余地をもった詩なんですよ。ここまで叙景詩的に来てますが、終連でテーマ性を持つのも良いのです。
例えばお父さんの死因が、戦争や事故といった理不尽なものである場合に、ここで語ってるお母さんが、それを子供たちにふっと教える、という形を取っても良いし、また、これを話してるお母さんがシングルマザーとして、これから子供たちを一人でもしっかり育てる気持ちを示してもよい。
叙景詩で終わらずに、終連でテーマ性を持ってくるのもアリの詩なんです。
まあ、どうするかはお任せしますが、ともかくせっかく1~3連をキレイに書いてきたのに、この終連はダメでしょうって感じです。終連、やり直してみて下さい。
1~3連だけ評価して、おまけ秀作にします。
●水野 耕助さん「生きるの真ん中に」
5連、良いですね。
まだなにも知らない
生きるということの
真ん中に
指ひとつでも
触れられるまで
この詩行、とても良いと思う。その気持ち、気概や良しです。
また、その前のステップとして、
死んではいない
そのことを認識はできても
この認識も、大事なものだと思います。
「どっこい、生きてる」、それが大事です。
世の中、捨てる神あれば拾う神あり、なんですけど、生きてないと拾ってもらえないのですよ。
終連の気概もいいですね。しがみつくこと大事。しがみついてると、なんとかなるもんです。
うむ、よく書けてます。今後どう発展していくか?ということはあるんですけど、現時点における「水野さんの詩」的には、これはパーフェクトに思います。秀作プラスあげましょう。
●妻咲邦香さん「無駄遣い」
ランダムな部分、部分の重ねとして読んでも、1本の芯となる情感は見える詩なので、わたし的にはOKですね。つまり、全体として伝わる芯はあるのでOKですが、思うに、妻咲さんの詩って、起承転結があるような、ないような詩が多いので、ストーリーで読ませる人じゃないのかもしれませんね。少なくとも読み手側からは、ストーリーが見えないことはままあります。この詩も全体のストーリーは見えないし、たぶんそれは書いた本人しかわからない状態ですが、全体を通しての、一貫した情感があるし、パーツパーツが結構楽しめるし、最後、ハッピーエンドだってのはわかるから、読みどころとしては、それで充分満たしてる、という感じです。
話が正しく理解できてるわけではありません。とりわけは、
わざわざ巻き戻して「初めまして」と言うための今日は
最初で最後の無駄遣い
タイトルともなっているこれの意味は、分からずじまいです。
なんとなく、元の鞘に収まったのかな?と想像するばかりです(←違うかもしれません)。でも、そこの意味はわからんけど、地球が回ったのならいいやって、割り切ってハッピーエンドに浸れるから、読後感は気持ちいいです。作者の嬉しさが伝わってきて、こっちにも嬉しさを分けてもらえる詩ですね。(本当は意味わかってないから、「つられて笑う」みたいな世界ですけど)
パーツで特に印象的だったのは、
狭いベッドで毛布を引っ張り合って、負けたら叩いて起こす
今は石鹸みたいに小さくなった
この2ヵ所です。
というわけで長短ありますけど、いい肉声がふんだんにあって、情感はしっかり伝わったことを評価し、秀作プラスを。
●麻月更紗さん「星空」
相手のことを具体的に想ってる、そのリアル感あるところは良いと思います。
メールを送れば答えは返ってくる
だけど
の気持ちは、そこちょっと表現おかしいけど、たぶん物足りない気持ちがあるんでしょう。また、
あなたは空なんか眺めない
と、相手の具体をわかっているところが、両者の近しさを表わしていて、良いです。
また、初連と2連の、真逆ではなくて、自分のところも星がよく見えてないけど、都会はもっと見えないだろうの比較の仕方も、珍しい形だなと思った。
2連2行目の「星空」は「星」でしょうね。
地上にはたくさんの星
でも、空は真っ暗闇のひとりぼっち
そんな夜空をあなたは
見ているだろうか
こうだろうなあー
3連、「なんとなく」と思っていても、「なんとなく」を書いてはいけない。
また3連は、つまるところ、相手が遠くにいることを恋しく思っているのであって、
離れていることを
感じていたいのかもしれない
この表現の仕方だと、意味合いが逆になりませんか? 3連は一考要に思いますよ。
良いとこ、悪いとこ、玉石混交ですけど、全体の印象、詩情は悪くないんで、おまけ秀作にしましょうか。夏の大三角形も良かったし。
でも指摘したところの表現は、もうちょっと詰めて下さい。
●ロンタローさん「あの頃のこと」
2連の、二人の道が迷路のようにこんがらがって、元に戻れないんだという表現は、とてもよく伝わりますし、わかります。
うーーん、実のところ、ただこんがらがってるだけなら、根性入れて、辛抱強く解きほぐしていけば、解きほぐすことは不可能ではないんですけどね。人ってそもそもが変わっていってしまうものなので、解きほぐしたところで、もう元の場所にはいないってことがあるんですよ。難しいんですよね、そこんとこが。
3連は、正直いうとかなり違和感がありました。自衛隊の編隊飛行でもないかぎり、飛行機雲が2本、同時並行ってことはまずあり得ないからです。空に2本見えることがあっても、それは、空のあっちとこっちって感じにバラバラにしか、旅客機の場合、出ないはずです。万が一あっても、着陸と離陸で、向きが真逆のはずなんですよ(その場合も高度はかなり離れます)。それに飛行機雲って、そもそもが端っこが切れてるものなので、どこまでも続いてるようなものではないのでねー。
そうした現実の飛行機雲に照らし合わせて考えると、ここの記述は全くそぐわないのですが、ただ、ここは3連の展開部であるから、夢想があっていいし、空想の図としての絵づらはとてもキレイなので、想像で書いた絵と、割り切って読むとキレイではあります。まあ、条件付きで可といったところです。
構成上でいえば、この詩は3連でうんと盛り上げなきゃいけないとこなんですが、どっこい、それが理由で私は3連はさほどでもなかったです。風景図としてはキレイなんですけど、比喩としてどうなんだ???って疑問は残りました。
そこはまあ小さな疑問なんですけど、それより、どうしても引っ掛かるのが、初連と終連のテンションの差なんですよね。
初連を読むと、戻ることが非常に難関なりに、戻りたい意志を感じるのだけど、終連を読むと面影も薄れて、戻る意志がなくなってる感じに読める。なんていうか、もう過去のものにしてしまって、哀愁の目で見てる感の、終連なんですよ。
もし、そうでないならば、終連の前半3行は変えられた方がいいと思う。ここがそういう雰囲気を出してしまっています。
はたして初連のスタンスの方に終連を合わせるのか、終連のスタンスの方に初連を合わせるのか、そこはご本人にお任せしますけど、ともかく両者のスタンスが食い違って読めてしまうのは、よくないです。
未練が残ってるのであろう、そのお気持ちはわかりますが、作品として、書く方針は定められた方がいいです。中盤はまあ彷徨ってもいいんですけどね、最初と最後の芯は通さないと。
うーーん、全体としていいセンは行ってて、悪くはないんですけどね、あと一息、詰めてほしいなあー、というところです。半歩前にします。
●秋さやかさん「はつこい」
ダイナミックな展開ですね。実のところは、飛行機雲と鳥の高度はまるで違うし、雲を辿ったところで太陽の距離とはまるで違うし、太陽に向かっていたものが落ちたら、下に月があるという位置関係もまるで違うのですが、しかしながらここまで一つも合ってないと、逆に空想物語として、わりきって読めるから、おもしろいです。逆に常識にこだわってると、この物語は書けないですから、割り切れるところが凄いですね。
思うに、星座だって、人間が勝手にいろんなものに想像して、ありもしない名前をつけてるんですから同じことですよね、この雲うさぎの物語だって。
お話、とてもおもしろいですし、特に雲うさぎの「動」が旺盛ですので、動きを追うように、読む方も、どんどん読み進みたくなります。良い魅力を持ってる作だと思います。
欲をいえば、「恋をした」のところで、その感情を噛み締めるようなタメがもう少しあるといいですね。大袈裟にはいらないんですが、1行で行き過ぎてしまうので、もう1行くらい気持ちのタメがほしい感じがしました。
2連の「戸惑ってたら」のとこもそうですね。「戸惑ってたら」の前に、「ここ、どこ?」「どうしよう」みたいな、ちょっとタメがあるとベターですね。
あと、タイトルなんですけどね。詩的にはひとひねりしたいとこではあるんですが、せっかくメルヘンチックにまとめているので、タイトルもそれっぽくていいように思います。
この詩における最もインパクトある言葉は、オリジナルの「雲うさざ」という言葉なので、この言葉を使って、「雲うさぎの恋(全部ひらがなでも可)」とした方がインパクトがあると思います。
いえば、雲うさぎは生まれたてであるので、雲うさぎにとって太陽は初恋ですが、お月様の雲うさぎへの恋については、月は前からいるだけに初恋とは思えない。よって「はつこい」だと片側しか指さないのに対して、「雲うさぎの恋」であれば、両方を指すことができるという点でも、こちらが良いように思います。
気になったところは以上ですかね。
このお話は初恋にやぶれても、また希望が湧く話でいいですよね。かわいそうなことの後に、良いことがあって、読後に「ああ、よかった!」の読後感が湧くのが良いです。お話自体はよくできていると思う。ちょいおまけ秀作プラスを。