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スレッドNo.5745

水銀の記憶  温泉郷

夏休み
少年は四国の祖母に
預けられた

あんたの母さんは
いったい
いつ迎えに来るんだろうね

祖母はだんだんと
機嫌が悪くなった

少年はうっかり                                                           体温計を割ってしまって
ひどく叱られて
泣いていた
祖母は
ガラスを丁寧に片付けたあと
少年を呼んだ

銀色の小さな球が
テーブルの木目に散らばっていた
祖母はそれを指でまとめた

ほら これが水銀
ほら こんな風に
くっつくんや

小さな球が融合して
少し大きな球になった
少年は指先で少し触ってみた
水銀は静かに転がった
何度も転がしてみた

少し大胆になった少年は
水銀を押しつぶしてみた
水銀は指を逃れて転がる
割れるもんかと
抵抗しているようだった

意地になって
水銀を指で
じわっとつぶすと
いくつかに割れて
小さな球になった

指をみると
指紋にも
小さな小さな水銀が
入り込んでいた

あぶないから食べたらあかんよ

祖母は 少年の指を拭き
水銀を手際よく
一つにまとめた

最後に
コロコロ
コロコロと
左右に転がして
微笑みかけてから
掌に乗せて台所に行った

少し乱暴な
水の音がした

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