おかえりなさい 温泉郷
「わたしはいつもいるよ」
何気ないその言葉が
いつも
静かに響いていた
少しずつ
一歩ずつ
半歩ずつ
遠ざかって行ったことに
気が付かなった
いてくれることで
鼓動も呼吸も脈動も
正常を刻んでいたのに
長い間ずっと
少しずつ傷つき
少しずつ悲しんでいることに
気が付かなかった
いつもの声が力を失い
悲しそうに
響くようになったことに
「わたしはいつもいるよ」
そして わたしの体系も
少しずつ損なわれ
少しずつ壊れていった
冷たいテーブル
冷たい銀の器具
目を閉じて
静寂の中へ
あちらへと
たどり着くのだろうか
意識がうすれ
意識が失われ
時間のトンネルをくぐる
「わたしはいつもいるよ」
帰ってきた
帰ってきてしまった
わたしは
呼吸を鼓動を脈動を感じる
わたしは
本当は聞きたかった……
その一言
おかえりなさい