床屋 樺里ゆう
千円カットの床屋さんに行って
髪を切ってもらう
理容師さんは
バーバーチェアの傍らに置いた椅子に座り
ぐるんと客席の周りを移動しながら
私の髪を切る
目の細かい櫛で髪を持ち上げ
サキサキと鋏を通し
いろんな角度で仕上がりを確かめながら
黙々と一連の流れを繰り返す
鏡の中で絶え間なく動く 器用な手さばきに
私はほれぼれする
理容師は昔 医者の役目も果たしていたと
どこかで聞いたことがある
そりゃそうだよな この手さばきは職人技だもの
そういえば床屋って
なんで床屋っていうんだろうか
一見して「床(とこ)」は関係ない職種なのに……
そんなことを考えているうちに
ケープを外され 施術は終わった
店の扉を開けると
バリカンで刈ってもらった襟足に
四月の日射しと空気が
ふきこんでくる
床屋の扉から出ていく人はみな
すがすがしい顔をしている
今日は私も
その一人になる