静寂 人と庸
その曲がり角が隠している景色を見たくて
自身の不意をつくようにそこを曲がると
もう街の声は聞こえない
その道には
若葉を透いて非日常が差し込んでいる
風はスローモーションで吹いている
はじめて歩く道だけれど
過去に何回も歩いた道だ
目的をしらず進む道は
いつだってなにかを隠している
それが見たくて進むのだ
いつの間にか地面は舗装することをやめて
小さなお社をわたしに近づけた
箱庭のような境内で
ぐるりを木々がお守りしている
その一角の二本の木が
胴から切られ立っていた
一つはクスの木
もう一つはカエデの木
切られているのに立っている
切られているのに立っている
風が吹いても動かない
揺られる葉も枝もない
何万年も前からそうしてきたみたいに
何万年も後までそうしているみたいに
失ってもなお
ふたり
立っている
※
街の声が徐々に聞こえてくる
時間がふたたび秒針を動かす
隠されたものを見つけても
こたえがわかったわけではない
何万年も前からそうなんだろう
何万年も後までそうなんだろう