凪の日 上原有栖
吹いていた風が止みました
さっきまで 僕のことをずっと呼んでいたのに
おーい おーい
小さな声で呼びかけても
風は返事を寄越しません
急に静かになってしまうと
なんだか寂しくなります
もう僕のことなんて
どうでもいいのかもしれない
扉に耳を当てて外の様子を伺います
ピタリと風が止んでしまうと
体の内側からさざめきの音がします
まだ僕の左胸は
早鐘を打つことをやめません
胸に手を当てて鼓動のリズムを確かめます
ふと窓から外を見てみると
シャボン玉がいくつも浮いていました
空に昇っていくわけでも 地面に落ちることもなく
視線の先に浮いている 虹色の球体
僕は瞳を閉じて 心にもシャボン玉を浮かべます
風はもう吹くことはありません
けれど 僕はもう寂しくもありません
おーい おーい
どこからか
小さな声が聞こえた気がしました