囲炉裏端で写真を焼く 温泉郷
山の麓にある
小さな古民家の
モノクロ写真
父が撮って
わたしが見ている
囲炉裏の中で
乾いて動かない灰が
何年も
次の火入れを待つ
軋んだ扉が
いつ開くのか
疲れた旅人が
いつ来るのか
古ぼけて
隙間のある扉を
風がたたいている
そんな写真だ
そうして
何年も何年も
そこに
そのままある灰
その上には
埃が薄く
積もっている
埃はただ
舞っては積もる
炭を足して
火入れすれば
埃は燃えて
灰は紅く蘇る
灰の願いが閉じ込められた
そんな写真だ
父がこの写真を撮った
わたしは囲炉裏端に座る
静かに火入れし
この写真を焼く…
灰の最後の祈りが
囲炉裏の中に 深く沈み
願いは扉を開けて
旅人とともに 雪空に昇る