筆箱 喜太郎
記憶の筆箱を開ける
あんなに綺麗に揃えた長い鉛筆たち
短くなって鉛筆の先も丸くなったまま
真新しい消しゴムも角も無くなり
黒い汚ればかりの小さな石のよう
定規もメモリも掠れてヒビも入っている
それでも筆箱だけは綺麗に磨いて
何を書いて来たのかも
何を消して来たのかも
何を測ったのかも
恥ずかしさで忘れたふりをして
だから人前では磨いた筆箱だけ見せて自慢する
もうやめなよ………
短い鉛筆でも丁寧に削って芯を尖らせ
汚れた消しゴムだって まだ使える
定規も自分の目盛りでしっかり測れるはずだよ
嘆く事はない 隠す事はない 自慢なんかしなくて良い
あの時は自分の思いを書いて来たんだよ
あの時の間違えは消して書き直して来たんだよ
自分の信じた事を測って決めて来たんだよ
閉じたままの筆箱を開いて
ありのままを見せてみよう
笑われても指さされても
これからは自分の文字に思いやりを足して書いて
白くした尊重の消しゴムで書き直して
消えかけた思いの定規の目盛は
他の人の心の定規の目盛を参考にして歩み寄り
君の手が動く限り書き綴れば良い
記憶の筆箱の中
書いてきたから 消してきたから 測ってきたから
その証が残っている
その証が悲しみや苦しみ辛さであっても
今から筆箱の中身を整理して思いを寄せて
人生の中に白紙がある限り書き続けよう
そうすればきっといつか筆箱の中身を堂々と見せられるし
笑顔にもなれるはず
そう 笑顔で思い返したいんだ 今の自分の決意を