ミラージュ 上原有栖
あなたの嘘をかぞえてみたら
いつの間にか両手じゃ足りなくなった
鏡の向こうのわたしは笑顔をつくる
積み重ねた想い出の輪郭を撫でていたら
優しい朝日が顔を覗かせたよ
今日は言えるかな
愛を込めて さよならを
必死に伸ばした両手の先が
あっさりと虚空をすり抜けた
見えるけど見えないもの
欲しくて欲しくてたまらないのに
手に入れることは絶対にできない
この結末は分かっていたのと呟く隣で
いままでの日常が静かに崩れていく
あなたの嘘をかぞえてみたら
いつの間にか両手じゃ足りなくなった
鏡の向こうのあなたはいつも微笑むけれど
鏡を見つめるわたしの頬には消えない涙の跡
越えられない境界の両側に映り込む
滲んだふたりの面影は
いまも変わらずに寄り添って
悲しいけれど もう時間だから
今日は言えるかな
愛を込めて さよならを
願いを込めて さよならを
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※ミラージュ(mirage):蜃気楼、幻想、幻影の意