海なる夜に舟を出す 荒木章太郎
機械化する森の中で
周りの人々は切り開き
凸凹を耕して 安定の上に
自分たちの家を建てる構成主義者だ
僕は境界線を曖昧にするから
陸を手放し 海なる夜に舟を出す
舟だけに住所不定だ
波を立てて ゆらぎの中を漕ぐ
凸凹どころではない構造主義者だ
陸は律法に準ずる
海は掟に従う
どう折り合いをつけるか
夜の時化で視野は狭まり
情報は波のように荒ぶれていた
灯台の君は――
すごいね
導いているのか
拒んでいるのか
知性は光で
照らしてくれることは感謝するけど
導くとしたら傲慢だね
舟にしか関心がないくせに
無事を祈るだけの
その無力さを憐れみに変え
さらに 慈しみに
昇華させている
そんな君からもらった光で
ランタンを灯す
闇のままであって欲しいという気持ち
胸に秘めて
目に見えないものを信じて
愛して 闇に漕ぎ出でる