カップラーメン 荒木章太郎
三分間、待つのだよ
俺の基準になっている
喜びも悲しみも三分間
最後の晩餐と決めている
ふるさとの味
おやじにぶたれて
血の味がした
おふくろの味
正義の味方、ウルトラマンが
三分間で戦いを終える時代
子どもを守るために、大人たちは
子ども番組を作ってくれた
それが俺の錆びついた味
父は革新から保守に転向し
経済を回して、家庭を省みず
母は自由と自立を求めて
学び舎へと転校した
株が暴落して、世界がぐらつく日々
各国の味に迎合しながら
湯気の向こうに抵抗の香りを感じて
テレビの前で、俺はアジテートした
君と二人、逃避行
東の地震、西の戦火、パンデミック
寄り添ったのは
避難所で啜る、あの日のカップラーメン
どの煙が目に染みたのか
炊き出しの湯気か、焼けた街並み
それとも君の命が遠のく夜の煙か
棺の前で三分間
涙が涸れるまで泣き尽くし
君との日々を一気に飲み干した
余命宣告を受けた夜
看護師の目を盗んで
病棟ベッドで隠れ食い
飽くなき欲望の残り香を
隠しきれない孤食の晩餐