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スレッドNo.5972

虚無主義にはなりたくない  荒木章太郎

俺は
顔の右半分を吊り上げて
ニヒニヒと笑うようになった
ニヒルに笑うこの癖を直そうと
プロテスタントの教会に通うことにした

俺が働く、占い師の派遣会社が入るビルで
ある日――
地下倉庫から剥製のワニが逃げた

ネットでは
「ビルに聖なる龍が出た」と話題になり
瞬く間に、そのビルは聖地となった

聖なるものは
人の噂が作り出すもの――
なぜ、剥製のワニが逃げたことを
秘密にしたのか?
逃げたワニは、どうなったのだろう

ニヒリズムに陥りそうになった俺は
最低でも千年は続く
古典的な教会が並んで入る、隣のビルに通って
まだ見たことのない神に祈る

親父の寺を継ぐ気になれず
黒い袈裟を着ることに背を向けて
白衣を着ることに顔を向けた

テック、素粒子、エビデンス、
量子力学、仮説、シミュレーション、
好都合に未来を見通し、
博士論文は白紙に戻す。
使い古された哲学者たちの知見は、
動画で済ませた。
結局、親父の説法と同じ地平に立っていた。

昇る太陽を、レンズに通して
レンジに入れて、チンして
本物のワニを焼いている――
物事を終わらせられないナルシスト

息を引き取るその瞬間までに
まだ見たことのない神が
信じられるようになるために
毎週、日曜日に教会に通った。

俺は
顔の左半分も吊り上げて
ヒニヒニとすべてを讃美して笑う

地下倉庫の床下には研究室があった
そこでは、稲やレタスや人工肉が育まれていた

前にいる人も、後ろにいる人も
上に住む人も、下に住む人も
なんとかバランスを取ろうと
工夫してきた親父たちは――
日差しの届かないところまで
落ち込み、壊れてしまった

心の瓦礫の下から
なんとか見つけた四葉のクローバー
その隣に置かれた
ワニの剥製

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