静けさの世界 aristotles200
静けさが世界を呑み込んでいく
破綻もなく、崩壊もなく
永遠に続くかのように
残されたのは
広大な廃墟と無数の塩の柱
全ては静かさに呑み込まれた
訪れる人もなく、塩の柱は立ち続けている
地下深くのメガロポリス
人々はまだ生き残っている
神の怒りに触れし末裔は、強欲でしぶとい
神々の怒り、大洪水による選別ののちに
地上に選ばれし生き物は、空前の繁栄を得た
もはや、神は必要とされなくなった
世界は三分された
地上には、神を捨てた人間たち
地下には、神に否定された人間たち
天空には、信仰されず力を失った神々
静けさに気付いたのは神々であった
人間の神々への信仰は失われ
神々の存在価値は、無に帰した
穏やかに
色を失い、透明となり
やがて消えた
享楽の限りを尽くす、地下の人間たち
やがて飽きる、全て色褪せてしまった
穏やかな無為の時間は耐えられない
一人、また一人と
暗闇に
姿を消し
最後の一人が消えたあと
そこには沈黙だけが残った
神々を捨てた地上の人間たち
繁栄を得る、そして
原因不明の病が流行ったのだ
病、というよりは呪い
業とか
人間が、生きたまま塩の柱に変化していく
最後の一人は
大声で、天にこの理不尽さを訴える
天空には、既に神々はいない
最後の声は
ありふれた
母を呼ぶ声だった
広大な廃墟の静けさと
無数の塩の柱が世界に遺された
静けさが世界を覆う
再生もなく、復活もなく
永遠に、この光景が続いていく