◎2025年7月8日(火)~7月10日(木)ご投稿分、評と感想です。(青島江里)
大変お待たせしました。
◎2025年7月8日(火)~7月10日(木)ご投稿分、評と感想です。
☆海なる夜に舟を出す 荒木章太郎さん
構成主義者と構造主義者という言葉が出てきました。普段の生活では耳慣れない言葉でした。どうやら哲学関係の言葉のようですね。今回の作品について、色々な人が色々な読み方をされると思いますが、私自身、哲学の世界は詳しくないので、詳しくない人がそのまま拝見した感想をお届けすれば、作者さんの何かお役に立てるのではないかと感じ、あえて詳しく調べ物などせずに、素のままで感想をお届けすることにしました。
地上に引かれる境界線。住所という決まり事を生み、その上に安定した個々の生活は成り立つ。けれども息苦しく感じる人だっている。作中の「僕」は、まさしくそのような方で、陸の安定よりも海の自由を選ぶということでしょうか。
陸は律法に準ずる
海は掟に従う
こちらの例えは構成主義と構造主義の違いについて、なんとなくこういうものではないかということを感じさせてくれました。言葉も短く整理されていて、頭の中にスッと入ってきました。
陸の上に建つ灯台についての舟で海を行くものとのからませ方も面白かったです。構成主義者ってこうなのじゃない?という「僕」の意見が伝わってきました。
終盤が特によかったです。
闇のままであって欲しいという気持ち
胸に秘めて
目に見えないものを信じて
愛して 闇に漕ぎ出でる
「闇=目に見えないもの」に例える方法が斬新でした。陸から百パーセント頷けない光に助けられながらも、心の中では、目に見えないものを信じたいという気持ちを胸に秘めているというところは、自分を持つという一本筋の通った強さを感じさせてくれました。
前半、「構成主義者」と「構造主義者」という耳慣れない言葉が登場し、難しそうな内容なのかなとも思いましたが、日常で耳慣れた、或いは見慣れた言葉やものを用いて、その二点についての持論を描いてくれたおかげで、肩に力を入れずにリラックスして読ませていただくことができました。大体こういうことなのかと思うこともできました。二つの主義がどういうものかということを書くことにとどまらず、「僕」の意見もしっかりと作中のメインとして描かれているところもよかったです。今回は佳作を。
☆火星人のすすめ aristotles200さん
「火星人のすすめ 」とは、ユニークなタイトルですね。読み手の方にもどういうことが書いているのだろうかと思わせてくれました。
なかなか面白いことの運び方ですね。地球人の不自由さを彷彿させるようなニュアンスの数々。自分なりの考えを地獄の捉え方を一つの視点として展開していくところが面白いですね。ドストレートに持ってきてしまえば、おそらく言っている意味が通じなくなってしまいそうなところを、我慢強く、少しずつ少しずつ自分の考えの方に寄せていく細かい表現の方法が印象的でした。
作中の中で印象深い残った表現、作者さんの持論は次の三点でした。
何故なら人の想像する地獄とは
苦しみ、という感情が必要
無為ではない
死後ですら
自分たちの想像した世界に生きている
永遠を、夢見ている
そう、火星は人間たちの世界ではない
今から、私は火星人であると主張する
その瞬間、私は無に帰する
地獄と天国から解放された
人間の軛から放たれた、宇宙人となる
日頃、当たり前のように思っている、地獄という世界の感じ方、死後の世界の在り方。人間がどれほど、人間自身を窮屈にしているのか。もしかしたらそうなのかもしれないと思わせてくれるような表現の数々でした。
人間のものを考えること自体が苦しみだとまとめ、終盤には、その考えそのものをひっくり返そうとするとろに「私は火星の地表に、一人座る/只、座禅する/私、自身が火星になるまで座禅する」という「動」の動きを表すところに「静」を持ってくるところも予想外でした。独自のユニークな考えをうまくまとめられている作品だと感じました。佳作を。
☆三本の煙突 喜太郎さん
「生きているといろいろあるね」だとか「生きるのって結構辛いよ」なんていうようなことを、自宅の窓から見える三本の煙突を象徴として、見事に表現してくれましたね。
ありのままの生活感や汗や涙に至るまで、詩の端から端まで、生身の人間が感じられる作品となっていると感じました。また、比喩のたて方も言葉を深く意味づけるものになっていて、とても印象的でした。
「何処からも視界に入る煙突」は、その高さから、「支配されている感じ」や「見下されている感じ」等を彷彿させ、いつかこの町を出て行ってやるという、握りしめる拳の力の強さを感じさせてくれるところにも繋がっていくと思いました。
そこから引き続いての拳のシワと脂汚れは、年輪という時間の大きな流れを感じさせ、また、その手の持つものが「食欲のための箸と酒を飲むコップ」ということに繋がってゆくところは、生活の苦しさ、或いは落胆や諦めのようなものまで感じさせてくれました。
更にそこからの「彼女の残した花瓶の花」のレトリック。水も無くなり、茶色く干からびており、触れただけで粉々になったという部分は、うまくいかなかった恋愛で受けた大打撃や失望、それと同時に、思い出にしたくないという気持ちを感じさせてくれました。触れて粉々になったというところは、現実を知らしめるという表現にもなっていて、非常に繊細な気持ちの表れを、身近にある生活用品を使ってうまく描いていらっしゃると思いました。
楽しかった思い出が過去になったのだと思い知らされても、更に「明日もいつもの時間に起きて/あの煙突の下へと向かうのだ」という、現実を見せつけるように、窓から見える三本の煙突を持ってきたところは圧巻でした。そして、人間が生活するために生きてゆく「どうしようもなさ」を強く感じさせてくれました。
ほんの少しだけ気になったのは、後ろから二行の「そこには床に散りばめられたカケラたちが/思い出は儚く遠い遠い昔なのだと教えられた」です。「カケラたちが教えられた」という風に、主語と述語が嚙み合っていない感じになっていて、しっくりこないようだと個人的には思ったので、
床に散りばめられたカケラたちに教えられた
思い出は儚く遠い遠い昔なのだと
或いは、
そこには床に散りばめられたカケラたち
思い出は儚く遠い遠い昔なのだと
このような感じで、主語と述語が繋がるようにすると、スムーズに流れると思います。何かのご参考になればうれしいです。
今回の作品は、私の方へご投稿していただいた作品の中で、一番印象的な作品となりました。一人の人間として生きるということの心の内を、独自の表現で、うまく表現されていると思います。将来、ご自身の詩集をつくられることがあった時、ぜひ入れていただきたいなと思うほどの一作でした。ほんのりあまめの秀作を。
☆永遠の伸縮 温泉郷さん
人間の感情なんて様々で、それこそ宇宙のようで手探りしたぐらいでは、わからないなんて思います。それこそブラックホールのようです。星と星の間の距離も、遠目から見た具合では、実際の距離はわからないなとも思います。
時として、感情とは、宇宙のよう。そのような感覚を表現してくれようとしている作品だと感じました。
気になったのは、一連目です。
最初はお月様
いい香りの
珈琲と休日
休日でコーヒータイムを楽しんでいるのだということは伝わってくるのですが、「最初はお月様」の部分。お月様だけであれば、夜なのかなということで読み進めて行けると思うのですが、「最初は」という部分で躓いてしまいました。読み進めていけばわかるのかなと思ったのですが「最初」から「最後」に或いは、「途中経過」らしいものに値する部分が、個人的には見つけることができませんでした。
車椅子に乗っているということで、介助される側の人間の心のひとつを描いてくれている部分は伝わってくるのですが、終盤には「星の輝き」「ブラックホール」のみしかでてきていなくて、「最初はお月様」とはどういう意味合いであったのかが、気になりました。
お話は変わって、心に残った表現ですが
カーペットの
褐色のにじみ
がちょうど
君のすきだった
白猫の
柄を汚していた
カーペットに褐色のにじみができたとするだけではなく、君の好きだった白猫の柄としたところがよかったです。色々な濃霧が立ち込めてくるような、言葉にしたいけれど我慢、我慢だと顔に出さずにしているような、もやもや感がよく伝わってきました。
宇宙は膨らんでいるといいますが、あるところまで到達すると、収縮しておわりをつげるなんてことを何かで読んだことがあります。これを個人の人間関係にあてはめてみると、似た部分もあるかもしれないなと、感じさせてくれる作品でもありました。今回は佳作一歩手前を。
☆奮い立つ感情 ふわり座さん
大好きすぎたのでしょうか。束縛してしまったような気持ち。登場人物の「僕」の後悔と思えるような気持ち。失恋しちゃったようですが、ひたすら前向きに、前向きに、前向きに。土砂降りの雨が降ろうが、ただ前向きに。とても力強い作品でした。
このままでも充分なのですが、個人的にはなるのですが、以下の部分。
① 沢山残されている君もその一つさ
② もう誰かを求めることはないなんて言えないよ
③ 歩き出すよ君との時間は全力でした恋だったから
① の「その一つさ」を「その一つ」に。②の「言えないよ」を「言えない」に。③の「歩き出すよ」を「歩き出す」にして、同行でひとマスあけて「君との」に続ける。或いは「歩き出す」で改行してみる。①から③の部分、言い切った感を出すことで、この作品の特色である力強さが更に強調できそうだと思いました。
今回の作品で、気持ちに残った表現は次の通りです。
膨れ上がる気持ちは心の奥深くに仕舞い込んだ
だけど爆発寸前の感情は叫び声を上げてる
昔好きだった何かも
これからの新しい何かも
どうでもいい全て無くなってしまえばいいと
拳を握る
失恋して悲しすぎてどうにかなんてしまいそうな、胸の奥にしまい込んでいる感情の表現が強く伝わってきました。辛いことがあって乗り超えていくレトリックとして、自然の中の一本の道を行進していくという組み立ては、多くの人が好んで書かれる表現ですが、感情の込め方の力強さが、独自の色を色濃くしていて、失恋の辛さが痛いくらいに伝わってきました。今回はふんわりあまめの佳作を。
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連日、とんでもない暑さです。気になるのは熱中症。「熱中症には水分塩分クエン酸」などと呪文のような言葉を思い出しつつ、水分多めに取ったり、レモン水を飲んだり、梅干しを食べてみたり・・・・・・。それにしても、暑さの中での元気強い蝉の声。本当にすごいエネルギー。
連日の暑さ、どうぞご自愛ください。
みなさま、今日も一日おつかれさまでした。