小夜啼鳥(さよなきどり) 三浦志郎 7/28
二人の
恋の証しに
ナイチンゲールは歌ってくれました
ロンドンの
バークレー公園での時間でした
二人の
小さな夜のために
その鳥は鳴くのでした
眠ることさえ忘れたように―
美しく鳴き終わった後は
血を吐いて
命を捨てかねないようにー
鳥のことは
そこまでにしましょう
むしろ
私たちの恋のことです
恋の始まりは俗に
”落ちる“とか言われますね
でも 私たちは
落ちませんでした
あの鳥の歌に誘われて
翼のように舞い上がったのです
そして 一緒に
何処までも行けるのでした
そう それは
恋の目的地のようでした
抱擁と接吻という
二人の営みのようでした
やはり鳥の話に戻しましょう
私たちの恋の行方を
ナイチンゲールは占い
祝福を歌にしてくれたのです
それは夜が美しい
バークレー公園の出来事でした
* * * * *
「ア ナイチンゲール サング イン バークレー・スクエア」
という曲がある。その昔、一度だけビッグバンドで演奏したことがあった。
つい最近も、ある女性シンガーが歌ったのを聴いた。それがきっかけで思い出した。
私はこの曲についてふたつの誤解をしていたのだ。
ひとつ目の誤解は、主題が歴史的に偉大な看護師ナイチンゲールの事だと思っていた。(あのナイチンゲールが「サング」―歌ったのか?)。しかしよくよく調べると、ナイチンゲールとは鳥の名前だった。
(あ、だから「ア」が付いてるわけだ。鳥が公園で鳴いたのか?)
ふたつ目の誤解は、私はこの曲をジャズのスタンダード・ナンバーと思っていた。
そうには違いないのだが、元々はイギリスの流行歌~LOVE SONGであると知れた。どうりで歌詞に「ロンドン」が出て来るわけだ。しかもこの曲の成立は1940年。時あたかも「BATTLE OF BRITAIN」。国家の存亡がかかっている時期に、こういった曲が生まれたのは、明らかに日本とは違う。本来「不謹慎」とされるべきだが、逆に「英国人の不退転・タフネス」として、私は感じ入ってしまう。ともかく元々は、アメリカの曲ではなかったのだ。しかし、こんな美しい曲なら、英米関係なく聴いていたい。ノスタルジックを味わうなら、ナット・キング・コールのフィーリング。モダンな雰囲気なら、ロッド・スチュワート・バージョンがわかりやすい。
ちなみに、ナイチンゲールという鳥は日本には存在しないそうだ。美しい歌声のわりには地味な装いの鳥。そこにある奥ゆかしさ。
ただ日本語訳だけはあって、「小夜啼鳥(さよなきどり)」という優しい名詞が与えられている。恋人たちと、この鳥のためだけに日本語は用意されている。そんな風にも思えて来る。曲を聴きながら調べて、私はなんだか嬉しくなって来たのだった。