恋愛の味覚 上原有栖
彼女は運命の恋を知りまして
まあるい頬っぺが落ちました
燃え上がるほど 周りが見えなくなるほどに
恋愛糖度は増していくのです
蕩けた甘さが粘ついて 虫歯になっては困ります
それを聞いた教えたがりの先輩たちは
訳知り顔で言ってくるでしょう
甘ったるいだけの恋は続かないわ
喧嘩した翌朝に飲んだ珈琲の─
─その苦味を知りなさい
嘘吐かれた深夜に零れた涙の─
─その塩味を知りなさい
想い違いで齧った青い果実の─
─その酸味を知りなさい
そして互いを支え合う信頼の─
─その旨味を知りなさい
先輩たちの忠告は耳を右から左へ抜けていきました
そんなこと分かっていると言うけれど
目は笑っていないし
声は震えているじゃない
さあ どうなるかしら
恋愛の味覚はバランスが大切なのに
そうそう例外は────
ひとりの先輩が話します
突き抜けるくらい異常な量の甘味で保存すること
恐ろしいほどに甘い愛情は
相手の身動きを封じるから
恋が腐らないほどの愛情を注ぎ込めば
永遠の「愛」が完成するかもしれないわね
その話を聞いて彼女はにっこり微笑みました